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当たってもいないパンチで「見事にKO」される片八百長も…沢村忠からシバターまで、格闘技の“リアルとフェイク”の狭間に迫る
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2022/01/30 17:02
2021年の大晦日『RIZIN.33』で久保優太から一本勝ちを収め、大喜びするシバター。試合後に「事前交渉」が発覚し八百長騒動にまで発展したが、榊原信行CEOは両者に処分を下さない方針を示した
途中で壊れてしまったとはいえ、四半世紀前には事前にシナリオが描かれた試合が実際に存在していたのである。いったい誰が何の目的で仕組んだのだろうか。日本のMMAは、まだまだ発展途上だった。
韓国では懲役10カ月の判決を受けたケースも
もっとも日本では仮に打ち合わせ通りの試合が成立してのちにそれがバレたとしても、本人の信用がガタ落ちになるだけで、司法の手が伸びるとは思えない。
お隣・韓国の事情は違う。2015年11月に開催されたUFCにおいて、日本でもファイトした経験を持つハン・スーファンは反社会勢力からわざと負けるように頼まれ、それを実行しようとした。前金として1億ウォン(当時のレートで約900万円)という大金を受け取っていたが、試合では2-1という際どい判定ながら勝利を収めた。いわゆる“ブック破り”をしたことになるため、その直後から反社会勢力の執拗な脅しを受けたことは想像に難くない。身の危険を感じたハンは自ら出頭し、ソウル中央地裁から背任収賄罪で懲役10カ月という判決を受けている。国が違えば、不正試合をしたら罪になるのだ。
時代の流れとともに、この手の試合のやり口も高度化し始めている。最近ではシバターvs久保優太が物議を醸した。試合前にシバターはSNSを通じて「いつでも私を仕留められると思うので 出来れば2ラウンド目に決めてください」などと依頼しながら、1R中に久保から腕ひしぎ十字固めで一本を奪ってしまったのだ。
後日、久保との間で試合前にやりとりがあったことが明らかになると、シバターはそれもフェイントと開き直り、世間から猛バッシングを受けた。依頼したことそのものがフェイクという主張は筋が通っているようでいて、同時に論点をズラしているようにも思える。
最終的にRIZINの榊原信行CEOは、久保が事前にシバターから連絡があったことを主催者側に伝えていたことなどを明かしたうえで、両者に処分を下さない見解を示した。
「シバターは品性下劣でスポーツマンシップのかけらもないけど、本人はスポーツマンシップにのっとることもないわけだし、プロの世界は正々堂々という戦いばかりではない」
正直モヤモヤ感は残ったままながら、シバターはバーチャルの世界の住人であり、従来のセオリーは全く通用しない。果たして、彼は格闘技の世界から足を洗うと宣言したが、それすらいまとなっては判然としない。第三者が真面目にシバターを糾弾しようとすればするほど、得体の知れないブラックホールへと迷い込んでしまう錯覚を覚える。YouTubeやSNS全盛の時代にあって、八百長や無気力試合、そしてそれらに類する試合の歴史は新章に突入しようとしているのかもしれない。
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