「（一昨年1月から部長に就任し）責任のあるポストを任せてもらえるようになりましたが、僕はある程度、責任のある役目を任せてもらえないと逆にやる気がでないタイプなんです。頭を使えば使うほど、やりがいも出る。それに、負けてダメだと言われても人に何と言われても親子は親子なんで、その辺りの絆はあると思っています。結果が出ても出なくても、監督とは“運命共同体”ですから」

　親子で指導して、やりにくさはないですか？　という質問はもう何十回も聞かれた。その度に指揮官はこう口にする。

「こんなやりやすいパートナーはいないですね。高校野球では監督と部長ってあっても、それは名前だけ。それに、息子とやっているという意識は年々薄れている気がします。おそらく息子もそう思っているんじゃないですか。お互いのいいところ、不足しているところは分かっているので、例えば、ここの能力は部長が高いから任せようとなるし、じゃあこっちは自分がフォローしようって自然とできています。他人同士だったら、そのあたりは反対に気を遣うのではないですかね」

　清峰時代に監督がコンビを組んでいた大崎高（長崎）の清水央彦監督の教えを乞うために、この冬、健人氏は長崎へも出向いた。

　投手指導に定評のある知将の指導論を吸収し、ますます指導意欲が高まった健人氏は、今、グラウンドで同じ位置に立つ父の存在に、「小さい時は親子の時間がなかったので、今がそう（親子の時間）なのかなと。でも、自分は監督の下だからここまでやらせてもらえていると思います。他の監督さんだったらここまではできないです」と感謝する。

「自分にとって、息子は日本一を目指す上でのいいパートナーという感じです。今まではがむしゃらにやってきましたが、私は今年で53歳なので、これからは高校野球に恩返しをできるような指導ができれば」

　今年の甲子園は今まで出場した大会の中で一番楽しみだと2人は口を揃える。白球と真剣に向き合いながら親子で目指す頂は、グラウンドをぐるっと囲む名峰よりもずっとずっと高い。