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「天の与えてくれた期待を裏切った」グレイシー・ゴールドが“摂食障害”に苦しんだ本当の理由…全米までの“奇跡のような”復帰の旅
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2022/01/19 17:00
全米選手権にて総合10位と、復帰後として最高の結果になったグレイシー・ゴールド
「もし本当に今季で最後にするのなら…」
彼女のSP「エデンの東」は、ミシェル・クワンを覚えているスケート関係者にとっては特別な音楽である。過去に町田樹が選んだ時も、クワンに憧れていたことが理由だったと彼の振付師のフィリップ・ミルズが筆者に語ってくれたことがあるが、ゴールドも例外ではなかった。
「毎年振付師のジェレミー(・アボット)が、滑りたい曲はあるかと聞いてくれると、必ずこの曲を挙げてきました。緑のドレスを着て『エデンの東』で滑りたいというのは、昔からの夢でした。でもミシェルはベストな選手でしたから、本当に自信がなければやめた方が良いと言われてきた。でも今年、もし本当に今季で最後にするのなら、他の曲は聞くまでもない、と決めていたんです」
それではこの大会が、彼女の終着点なのだろうか。次のオリンピックまであと4年続ける気はあるかと聞くと、
「その質問はされたことがあります。私の母は、いつも私がワンモア症候群だというの。あともう一回、あともう一回だけ、と言い続けて。これまでは、それが私の助けになってきたんですけれどね」
「次のオリンピックまで1サイクル続けたら、私は30歳になってるわ。USFSがシングルで30歳の選手をオリンピックに派遣したことって、過去にあったのかしら?」
ここまで戻ってきたこと自体が“奇跡”
ゴールドは結局SP6位から、総合で10位という結果になった。それでも復帰後の全米選手権では、過去最高の結果である。
「復帰してどこまでやったら満足するのか、というのはこのシーズンが終わってからゆっくり考えます。怪我で止む無くやめる選手もいるけれど、私の場合はそうではない。もう26歳という気もあまりしません」
療養中のゴールドの状態を思うと、ここまで戻ってきたこと自体が奇跡としか言いようがない。彼女がこれからどのような決断を下すにしろ、若い選手たちのインスピレーションとして輝き続けていくだろう。