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「天の与えてくれた期待を裏切った」グレイシー・ゴールドが“摂食障害”に苦しんだ本当の理由…全米までの“奇跡のような”復帰の旅 

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田村明子

田村明子Akiko Tamura

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posted2022/01/19 17:00

「天の与えてくれた期待を裏切った」グレイシー・ゴールドが“摂食障害”に苦しんだ本当の理由…全米までの“奇跡のような”復帰の旅<Number Web> photograph by Getty Images

全米選手権にて総合10位と、復帰後として最高の結果になったグレイシー・ゴールド

ゴールドの心が壊れたきっかけ「成功の歯車が狂い始めて…」

「プレッシャーの80%は、自分自身が与えたものでした」と、それでもゴールドは誰を責めるでもなくそう口にした。2019年6月、ニューヨークを訪れた際に筆者の単独インタビューに応じ、自分の気持ちを率直に語ってくれた。

「天は私に才能と身体能力、真面目に練習する精神力、スケートをやっていける経済力のある家庭環境と理解ある両親など、すべての条件を与えてくれました。同じ条件をもらった他の人だったら、これをもっと有効に使えたと思う。これを生かすことのできなかった自分は、天の与えてくれた期待を裏切ったのだ、と自責の念にかられたのです」

 発病のきっかけの一つは、2016年ボストン世界選手権だった。SPで1位に立つもフリーで失敗して総合4位。代わりに米国内で最大のライバルだったアシュリー・ワグナーが銀メダルを手にした。この悔しさをバネにして、次こそは、と一念発起する選手もいるだろう。だがゴールドの心は、壊れてしまった。

「もともと自分は性格的に完璧主義者のところがありました。この性格が、これまで多くの成功ももたらしてくれた。でも歯車が狂い始めたとき、それまで当たり前だったことすらできなくなった自分が許せなかった。自分が恥ずかしく、他の人たちと一緒にいるのが苦痛でした」

長い復帰への道「怖くて跳べなかった」

 2017-2018年、2018-2019年のシーズンを治療に専念したゴールド。2018年11月にはロステルコム杯で久しぶりに競技に顔を見せたが、SPで最下位になった後に棄権してしまった。あれほどの才能ある選手が、ここまで跳べなくなってしまうものか。見ている側も、驚愕するほどの変貌ぶりだった。

 そこから這い上がるのは、長く遠い道だった。

「治療が終わってから靴を履いた時は、2サルコウと2トウループしか跳べなくなっていたんです。それ以外は怖くて跳べなかった」

 この全米選手権のSPで得た67.61は2016年4月のチームチャレンジ以来の高得点だった。演技を終えて両手で顔を覆った時、どんな気持ちだったのか。

「私の泣き顔は可愛くないんです。NBCのカメラはこっちを向いていたし。これは表面的なことだけど、よくファンが私の写真を持ってきてサインをねだられることが多いのですが、これはまずい、という写真もあって。実際のところ、これまでトレーニングしてきたことを全部出せたことで、感情が高ぶったためでした」

 どこまでが冗談で、どこまでが本気なのか、マスクをしていたので顔の表情はよくわからなかった。

【次ページ】 ここまで戻ってきたこと自体が“奇跡”

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