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「こんなセッターはなかなかいない」清風・前田凌吾は春高バレーの主役になる? 才能を磨いた環境と、敵将が恐れる“目”
posted2022/01/04 06:01
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
MATSUO.K/AFLO SPORT
うわー、好きだ。
決して広くない清風高校の体育館で、思わず声が出た。
ライト後方から前衛レフトへ、きれいな軌道でブレることなくぴゅーっと、いやふわっと、ポーンと、どう表現すればいいかわからないほど美しく、しかもアタッカーが打つには絶好の高さへトスを上げる。
「春高まであと40日」と掲げられたボードを見て、ここは高校だ、と改めて思い直す。
見ているこちらがえらく興奮した、その高い技術力を含む巧みな1本も、18歳の彼にとっては当たり前で、周囲の選手も驚くことなくボールをとらえてバチンと打つ。さらに驚かされたのは、その1本を上げたセッターがアタッカーに向けて発した言葉だった。
「高さどう? あと5センチぐらい高くてもいける?」
高校生に限らず、Vリーグを見ていても、どれほどトス回しに長けたセッターだとしても近頃は「パス力がない」と感じることが少なくない。そのせいか、離れた位置でもしっかり飛ばすパス力と正確性、打ちやすそうな質に驚かされた。しかも「あと5センチ」と具体的な数字を出してアタッカーと確認し、すぐに応える力も兼ね備える彼は何者なのか。
大阪・清風高校3年、前田凌吾。紛れもなく、1月6日から始まる第74回春高バレーの主役となり得るナンバーワンで、オンリーワンのセッターだ。
なぜ前田のトスに魅了されるのか?
いいセッター、うまいセッター。その形容詞に当てはまる選手は何人もいる。それでもなぜ、高校生の前田は見る人を魅了するのか。
ヒントをくれたのは、清風高の山口誠監督だ。現役時代はセッターとして筑波大、東レアローズで活躍し、日本代表でもプレー。デンマークリーグで監督兼選手として、つくばユナイテッドでも監督を務めた異例の経歴を持ち、08年から母校を率いている。20年から3年連続でセンターコートへ導いた45歳の熱き名将だ。
元選手、セッターとして、さらには指導者として多くの選手を見てきた知見。山口監督はそのどちらの側面から見ても前田を高く、かつ簡潔に評価した。
「うまさは抜群。間違いない。パス力もあるし、トス回しも大胆で考えながら周りに指示する力、動かす力もあるのが前田です。何より、見ていて面白いでしょ」
まさにその通りだった。