高2時からレギュラーとして活躍した小泉の韮崎高での3年間は、やはり中田英寿を中心に彩られている。彼のキャラクターがよくわかるエピソードがある。それは高3時の選手権山梨県予選決勝、帝京第三戦でのことだ。

　キャプテン小泉、副キャプテン中田を擁した韮崎は、後半の終盤までに2－1のリードを奪い、2年連続の選手権出場に王手をかけていた。しかし、この時すでに小泉の足は限界を迎えており、終了間際には足が攣って交代を告げられた。

　キャプテンマークを腕に巻いたままベンチに腰を落とした小泉の耳に歓声が聞こえた。土壇場で帝京第三に同点に追いつかれたのだ。仲間たちを見ることすらできない小泉の目に、延長戦に向けて引き上げてきた中田の顔が飛び込んできた。咄嗟に「キャプテンマークを渡さなきゃ」と駆け寄り、「頼んだ」と伝えると、中田は無言でキャプテンマークを受け取って左腕に強く巻きつけた。そして「ここからだぞ、最後までやり切ろうぜ！」とチームメイトを鼓舞した。

「本来は僕が言わなきゃいけない立場なのに、ヒデが代わりにやってくれた。申し訳ない気持ちがあったけど、僕はただ泣くことしかできなかったんです」

　試合はPK戦までもつれ、敗戦。ピッチで泣き崩れた仲間たちを1人1人抱き起こして最後まで気丈に振る舞った中田と対照的に、キャプテン小泉は何もすることができなかった。

小泉監督が高2時に出場した選手権での集合写真

駄菓子屋でヒデが言ったこと

　高校サッカーを終えた中田はベルマーレ平塚（現湘南ベルマーレ）に入団すること、小泉は中央大に進学することが決まっていた。新しいスタートに向けて気持ちを切り替えている中田を尻目に、小泉は自暴自棄になっていたと振り返る。

「自分はいつまでも敗戦を引きずっていたんです。（気持ちを切り替えている）ヒデを羨ましく思ったし、『ヒデはすごいな、自分はダメだな』とネガティブな気持ちもありました」

　高校生活最後の選手権の出場を逃してから1カ月ほど経った時のこと。小泉は下校の途中で中田と近所の駄菓子屋に寄り道をした。駄菓子を頬張った中田は小泉に向かってこう語りかけた。

「ずっとチームをまとめてきたお前がピッチからいなくなったのは本当に痛かったよ。お前には最後までピッチにいて欲しかった」

　このひと言で目が覚めた。中田と別れた後、小泉は自宅に向かう自転車の上で涙を流した。

「震えたというか、ヒデはそんな風に自分を思ってくれていたのか、と。ずっと引きずっている自分が情けないと思ったんです。それがヒデの優しさであり、気配りなんです」

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