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<金メダルペアに連勝>「憂鬱で逃げ出したかった」バドミントン志田千陽・松山奈未組が覚悟を決めたある先輩の言葉
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2021/12/12 11:00
12月4日、ワールドツアーファイナルズで東京五輪金メダルペア(ポリイ、ラハユ組)を再び破った松山(左)と志田
2人は高校を卒業後、再春館製薬所に入社し、飛躍のきっかけをつかんだ。2018年、ダブルスの福島と廣田らが移籍。実業団チームとして国内のさまざまな大会で活動する中で、ダブルスのエース格だったペアが抜けたことで、必然的に志田、松山がチームのダブルスの主軸とならざるを得なかった。
「荷が重すぎました。(移籍が)松山も怪我をしていた時期だったので。正直、憂鬱でしたし、逃げ出したくて、自信がなかったです」
志田がこの頃を振り返り、こう語っている。
プレッシャーのもとでの消極的ともとれる姿勢は練習にも現れた。そのとき、強いアドバイスがあった。
「やるべきことをやらなければだめでしょう」
志田にとって高校およびチームの先輩であったロンドン五輪銀メダルの藤井だった。
「それがきっかけとなって、覚悟が決まりました」
練習への取り組み方、技術なども教わりながら、自覚を持って臨んだ志田と松山は、格上のペアとの対戦を含めシーズンを6戦全勝で終えた。エースとしての役割を全うする活躍で、チームの2季ぶり2度目の優勝に貢献した。
パリへ向けて国内の熾烈な争い
意図せぬ形で得たポジションだったが、それをいかして成長した2人は、2020年、日本代表のBチームからAチームへの昇格を果たす。世界ランキングで決まる東京五輪の代表争いには間に合わなかったが、パリへ向けて気持ちを新たにしてスタートを切った。そして大きな成果としてあげることができたのが、今回の国際大会連勝などの好成績だった。
ワールドツアーファイナルズでは最後に勝てなかったことから、反省も述べつつ、世界選手権へと気持ちを向けた。
「マイナスな点も多かったですが、よかったところも忘れず、世界選手権では優勝をめざして頑張りたいと思います」
女子ダブルスは、東京五輪こそメダルを獲れなかったが、世界ランク1位の福島・廣田組を筆頭に日本が層の厚さを誇る種目だ。
今回の世界選手権に福島・廣田組は参戦しないが、東京五輪ベスト8の永原・松本組が出場。世界ランキングが重要となるバドミントンでは、国際大会での成績は国内での代表争いにも直結するだけに、熾烈な国内の競争を考えても、一戦一戦、重みがある。夢に近づくためにも、大切な舞台となる。