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「『人間じゃない』って言われます」“香川の怪童”浅野翔吾(高松商)が171cmで飛距離を伸ばせるワケ《阪神ドラ1森木から3安打》
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph byTakahiro Kikuchi
posted2021/12/08 17:02
取材にこたえる“香川の怪童”浅野翔吾(高松商)。身長171cmで飛距離を伸ばせる理由とは
以前までは狙い球を絞っていた時期もあったが、今は「絞っているヒマがあったら来た球を全力で打つ」と体の反応に任せている。今夏にはホームランを放ち、「スライダーを打てた」と思って映像を見たら、実際にはストレートだったこともあった。
「どの球が来ても、芯に当たったら一緒ですから」
そんな言葉には、浅野の独特な感性がにじんでいる。
スイッチヒッターに挑戦中「右も左も変わらない」
そして浅野は今、さらなる独自の道を歩んでいる。スイッチヒッターに挑戦しているのだ。
中学時代から「バランスを整えるため」、左打席でもスイングをしていた。だが、最近になって「左でも案外打てるな」と本格的にスイッチヒッターを練習するようになったという。浅野はこともなげに言う。
「飛ばし方は右も左も変わらないですから」
ただし、今のところ左打席に入るのは「右打席の状態がいい時」と決めている。「打てない状態で左にすると感覚が狂うので」と浅野は言う。
日本では、長距離砲でスイッチヒッターに転向する例は非常に少ない。筒香嘉智(パイレーツ)が横浜高時代にスイッチヒッターとしてプレーした時期があったくらいだろう。浅野はその前例も知っていた。
「右だと流し打ちは得意じゃないんですけど、左ならインコースのボールを開きながらレフトに持っていくこともできます。技術の引き出しも増えるので、上でもスイッチを続けたいと思い始めています」
監督「普通に試合できていたら80本は打っています」
年内の対外試合を終えた段階で、高校通算本塁打は44本に達した。しかも、3本は左打席で放ったものだという。
だが、監督の長尾は本数について不満そうな表情でこう語る。
「ウチは公立だから、この2年はコロナの影響で練習試合が全然できなかったんです。例年より半分くらいの試合数だったので、普通に試合できていたら浅野なら80本は打っていますよ」
現時点で浅野は高卒でのプロ入りを目指している。「1試合に1球くるかどうか」という甘い球を確実に仕留めるため、ひと振りの精度にこだわって振り込んでいる。
「吉田正尚さん(オリックス)や森友哉さん(西武)のように、この身長でも夢を与えられる選手になりたいです」
生涯通算本塁打194本。小さな体に大志を抱き、香川が生んだ怪童は新たな伝説を作ろうとしている。