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「ちょっと打ち合わせで…」240kmを走っていく男がいる トップランナーのサステナブルはここまで来ていた「飛行機に乗ることはない」 

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林田順子

林田順子Junko Hayashida

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posted2021/11/06 11:01

「ちょっと打ち合わせで…」240kmを走っていく男がいる トップランナーのサステナブルはここまで来ていた「飛行機に乗ることはない」<Number Web>

世界的トップトレイルランナーのグザビエ・テベナール

 今年5月にチューリッヒで行われたOnの研究開発チームとのミーティングに、彼はなんと走って現れたというのだ。ジュラの自宅からチューリッヒまでは約240km。3日間かかったという。

「今後は飛行機に乗って海外のレースに行くことはないでしょう。もちろんUTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ)など日本のレースに戻りたいという気持ちは強いけれど、それでも飛行機に乗るつもりはありません。だからと言ってボートで行くにはあまりにも時間がかかりますよね(笑)。

 う~ん、例えばソーラーパネルで飛ぶ飛行機やバイオガス飛行機など、サステナブルな飛行機ができたら行けるかな。でもそれは今のところ現実的な話ではない。こういう僕の考えをOnは理解してくれて、サポートしてくれる。これはとてもハッピーなことです」

 最近ではOnと共同で自然環境保護のためのプロジェクト「A La Croisée des Chemins」もスタートした。

 このプロジェクトは、「ランナーやトレイルランニングコミュニティに、よりサステナブルなライフスタイルを考えるきっかけを与えたい。そして、このライフスタイルをより多くの人に受け入れてもらいたい」というグザビエの思いが実現したものだ。

「僕自身、ランニングがきっかけでサステナブルについて深く考えるようになりました。僕は外で過ごすことが何よりも好きで、他のランナーやトレイルランナーたちと目の前に広がる自然を変わらず見ていられるようにしたい。現在の僕たちの働き方や旅行などの生活スタイルは明らかに持続可能ではありません。すでに何年後かには、今見ているものが失われていくことももう分かっています。僕は最初に行動を起こす必要があるし、みんなにも同じ船に乗ってもらえるよう努力をしていかなくてはいけない」

「野菜と果物は裏庭で育てている」

 プロジェクトでは現在、グザビエが生まれ育ったジュラ山脈の12カ所にサインを設置。ここに表示されているQRコードを読み込むと、スペシャルムービーでグザビエからのメッセージを見ることができる。他にも様々な活動を予定していて、これらはSNSなどで積極的に発信していくという。

「個人的な話では、今、自分たちが食べるための野菜と果物は、自宅の裏庭で育てていますし、季節の野菜や食べ物を食べることも大事にしています。それと現在新しい家を建築中です。持続可能な材料で、持続可能なエネルギー消費ができる家。つまり完全なる自給自足のライフスタイルを実現しようと思っています」

 今年のUTMBでは有力候補と目される一方、昨年夏にはライム病、秋には新型コロナウィルスに感染したことで、その影響による体調面が懸念されていた。

「発熱、息苦しさ、倦怠感、味覚障害……感染の症状は、ひととおり経験しましたが、今は健康診断も受けて、何も問題ないと言われているし、体調はすごくいい。モチベーションも高いです」

 レース前はそう語っていたが、結果はリタイア。やはり万全の状態とはいかなかったようだ。

「レースで辛い時は自分にこう言い聞かせるんです。『僕が選んだから、今ここにいるんだ』と。自分を奮い立たせて、自分にとってこれは決して最悪の事態ではないと言い聞かせる。僕が好きだからトレイルをやっているわけで、レースは誰かと戦うというよりは自分自身との戦いだと思っています。すべては耐え抜く心が大事なのです」

<前編から続く>

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