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“超過酷”170kmトレイルレースUTMBはファン以外も感動する駅伝のようなレースだった 

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林田順子

林田順子Junko Hayashida

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posted2021/11/06 11:00

“超過酷”170kmトレイルレースUTMBはファン以外も感動する駅伝のようなレースだった<Number Web>

世界最高峰のトレイルランレース「UTMB」。全長約170km、登りの獲得標高差10000m、制限時間は46時間30分

「これは箱根駅伝に近いのかもしれない」

 だがUTMBの当日、スタートの1時間前に現場に到着して驚いた。2日前とは比べ物にならないぐらいコースの両側に人が溢れかえっている。観客は時間の経過とともに、どんどん増えていき、スタート直前は通り抜けるのもやっとの状況。あちこちに大会Tシャツやキャップをかぶった人がいて、みんな心から大会を楽しんでいるのが伝わってくる。

 選手がスタートゲートに並び終わると、トップランナーの名前がコールされ、コースの向こうから、スタートラインに向かって彼らが歩いてくる。取り囲むテレビクルー、コース脇からの歓声は両側の建物に反響し、何倍ものうねりとなって降り注ぐ。

 スタート直前になると、司会者は観客、スタッフ、選手をも巻き込んで手拍子を打つように煽り、ヴァンゲリスの「conquest of paradise」が流れるといよいよスタートだ。号砲が鳴り、選手たちは観客の合間を縫うようにして走り出す。市街地を抜け、山を目指す彼らを街が一体となって送り出す。

 大都市マラソンとも違う独特の空気感だった。

 ランニングとは無縁の人も、普段レースを見たことがない人も、選手の名前を知らない人も、沿道にやってきて手を打ち鳴らして選手に声援を送る。

 競技に興味があるとは思えない人まで巻き込む不思議な魅力と熱狂。

 これは、箱根駅伝に近いのかもしれない。

深夜の山中もライブ中継

 スタートの余韻も覚めぬまま、今回は選手を追いかけて、フランス、イタリア、スイスと、約20時間をかけて、6カ所の観戦スポットを移動。

 驚いたのは、陽が落ちた20時過ぎのハイキングコースにも、朝7時のエイドステーションの入り口にも子供からお年寄りまで観客がいて、「Allez! Allez! Allez!(行け!行け!行け!)」と選手に声援を送っていたことだ。ハードな山岳エリアはさすがに別だが、いたるところに観客がいるので、移動中も「ここもコースの一部なんだな」と知ることができる(考えてみたら、これも箱根駅伝に似ている)。こんなに広範囲にわたるレースにも関わらず、どの地域の人々もこの大会を愛しているのだ。

 規模では遠く及ばないが、視聴コンテンツに力を入れているのも、箱根駅伝と似ているのかもしれない。

 コースのあちこちで撮影機材を手にしたボランティアスタッフたちを見つけた。

 ハードなコース設定に加え、マイナースポーツということもあって、トレイルレースではロードのように選手カメラが追いかけるのは難しい。だが、UTMBではランナーやマウンテンバイク部隊が、険しい山岳地帯や真っ暗闇で足元しか見えない深夜の山中でも、交代して選手の姿を追う。

 その映像はオフィシャルサイトで常にライブ配信されている。ほかにも3D画像を使ってコースの過酷さを説明したり、エイドにいるトップランナーのサポートクルーに選手のコンディションや補給食を尋ねるなど充実の内容。

 加えて、すべての選手のポイント通過順位とタイム、予想ゴールタイムがほぼリアルタイムでサイトに反映されるのだから、配信にどれだけ力を入れているかがわかる。

【次ページ】 走らなくても、また来たい

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