走らなくても、また来たい

　さて、ひと晩かけてフィニッシュ地点に戻って、さらに驚いた。ゴール直前の仕切られたエリア以外はどこもかしこも人で溢れかえっている。コースも例外じゃない。選手1人がやっと通れるほどのギリギリまで観客が溢れているのだ。

　その大群集に向かって、あの司会者が再び手拍子を求める。

　そしてヴァンゲリスのあの曲が鳴り響くと、観客はどこにいてもまもなくランナーが戻ってくることを知る。遠くから観客たちの大歓声がウエーブのように近づいてくると、観客の合間を縫って、選手が現れる。

　蛇行をしながら両脇の観客とタッチをし、笑顔で走る選手。ここまできたらタイムは関係ない。ゴールにたどり着く喜びを長く噛み締めるだけだ。それはゴールというよりも「おかえり」と旅の帰還を迎え入れるかのような光景だった。

　しかもこれがトップ選手のゴールのたびに繰り広げられるのだ。そしてなぜか毎回同じように感動する。

　UTMBは選手だけでなく、観客も全力で楽しませようとしているのだなと感じた。

　ゴール脇のパブリックビューイングでは、お年寄りが石段に腰掛けてゴールシーンを観戦していたし、前日走った選手にサインをもらう子供もいた。みんなが思い思いのスタイルでUTMBを楽しんでいて、ここではトレイルランが見る競技としても多くの人に愛されているのだと実感できる。

　走らなくても、また来たい。

　そんな風に思わせるUTMBはまさしく世界最高峰のトレイルレースだった。＜後編に続く＞