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他球団スカウトの“後悔”「タイガースはうまいことやったな~」ドラフト5日後に完全試合の“ドラ3左腕”…ドラフトウラ話《阪神編》
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/27 17:05
阪神から3位で指名された新潟医療福祉大・桐敷拓馬投手(178cm90kg・左投左打・本庄東高)
「前に見た時は、スライダー、こんなにいい動きしてなかったんですよ。フォークと、ツーシームと……あとはチェンジアップですかね。フォークとツーシームは使えると思ったんですけどね、スライダーがあまりにも弱いというか、動きが悪くてね」
確かに今日も、三振を奪っているのはフォークとツーシーム。ストライクゾーンからボールゾーンに落として振らせている。
「あ、ほら、今のボールね」
右打者のバットが、足元のスライダーに空を切った。
「あんなスライダーじゃなかったんですよ、ただの見せ球みたいなね。だけど、今日はいい動きしてるな~、まあ、今日に限ってですけどね」
今日ひと試合だけよくても、まだ信用できない。いつもいい変化をするところを見せてくれないと……。
それが、「プロ」の評価の仕方だ。
「いくらフォークやツーシームがよくても、落としてボールゾーンで振らせるボールは、じきに捨てられるようになるんです、プロでは。やっぱりストレート系っていうのか、真っすぐと同じ軌道で来て、スッと動くスライダーがあるから、落ちる系に手を出してくれるんでね。そこが弱いと……アマチュアのうちは、140キロ後半と落ちるボールがあれば抑えられるけど、プロに行ったら急に苦労するんですよ」
「吉田輝星はスライダーが上手く投げられない」
そういえば……。「スライダー」で思い出した話があった。サウスポーではないが、日本ハムの右腕・吉田輝星だ。
2018年夏の甲子園、優勝旗を初めて東北に持って帰るか?と注目された決勝戦で、大阪桐蔭打線に粉砕されたものの、常時145キロ前後の快速球にカーブ、フォークを武器に快進撃。一躍、甲子園のスターにのし上がった剛腕だ。
夏の甲子園での快進撃のすぐ後、吉田投手をよく知る関係者が、こんな心配をしていた。
「確かに、吉田輝星ってピッチャーは、うなるようなえげつないストレート持ってますけど、スライダーが上手く投げられない。甲子園であれだけ投げちゃえば、もう“ドラ1”なんでしょうけど、本人にとっては、ちょっと重荷かもしれないですね。プロではスライダーないと、必ず苦労しますからね」
予言通り、ドラフト1位で日本ハムに進んだ吉田輝星。
そのせいかどうか、ほんとのところはわからないが、3年目の今季も、チームは窮状を極めたが、一軍登板はここまでわずか1試合2イニングだったのも、やはり「予言通り」となった。
「えらい人はブライト健太の試合に行ってますから」
「今日のピッチングなら、2位でもいいなぁ……」
もう一度、つぶやきが聞こえてきた。