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<世界体操>内村航平に0.001点差で五輪を逃した男、米倉英信が「航平さんと2人で金メダル」を目指すワケ
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2021/10/24 06:01
20日の跳馬予選を4位で通過した米倉。鉄棒の内村と同じく24日に決勝を迎える
米倉が、一歩突き抜けた存在になった要因は、オリジナル技である「ヨネクラ」を完成させたことにあるが、「ヨネクラ」を生み出した背景には代表選考基準の変更があった。基準変更により、1つの種目でオリンピックを目指せることになった。跳馬を得意とする米倉がすべてのエネルギーを注ぎ、新技に着手したのだ。やがて習得し実戦で用いるようになり、2018年には全日本種目別選手権で初優勝を果たした。
2019年2月の種目別ワールドカップで決めたのを受け、その技は国際体操連盟から「ヨネクラ」と命名された。その後も磨きをかけ、思い描いていたように五輪代表を現実のものにする手前まで近づいていた。だが、その目標には惜しくも届かなかった。
内村の代表選出が決まった後、米倉自身はこれまでの戦いをこう振り返った。
「この3カ月間、練習から気を抜けない、試合も気を抜けない中、代表の権利を獲れませんでしたが、航平さんと競り合ったことは今後の強みになります」
目標に届かなくても、正面から結果を受け止め、前を見据えた。
あれから4カ月強、たどり着いたのが世界選手権だった。
内村航平とともに戦う意味
大会の開幕を前に、米倉はオリンピックのあと、内村と話したエピソードを明かした。
「オリンピックの試合の雰囲気などについて聞きました。出た人にしか分からないこともあるでしょうし、目指していた身として、そういうところを聞いてみたかったです」
そしてこう語った。
「航平さんと2人で金メダルを獲って、(オリンピックの)選考会がどれだけ高いレベルの戦いだったかを伝えることができたらと思います」
それは目標が世界一であることを伝えていた。
まず順調なスタートを切った予選を終え、米倉はこう口にする。
「国内の大会と違い、僕のときは僕だけ応援してくれる状況を感じました。力を出すことができました」
24日に控える決勝を見据えて、こう語る。
「予選よりしっかりまとめて、金メダルへ向けて頑張りたいです」
跳馬は体操競技の中でいちばん短い時間で終わる。いくつもの技を出せるわけでもない。
積み重ねてきた時間を凝縮して挑む、一瞬の勝負。24歳の跳馬のスペシャリストが栄光へ向かって踏み切る。