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<世界体操>内村航平に0.001点差で五輪を逃した男、米倉英信が「航平さんと2人で金メダル」を目指すワケ
posted2021/10/24 06:01
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Getty Images
その表情は、喜びに満ちていた。マットを降りると両拳を握りしめ、ガッツポーズをしてみせた。
10月18日から福岡県北九州市で行われている世界体操選手権で、20日の跳馬予選は米倉英信にとって、初めての大舞台となった。
1本目。タイミングをとりながらスタートし、助走のあとロイター板を蹴って踏み切ると、身体を捻りながら跳馬に手をつく。伸身姿勢を保ちながらさらに身体を2回半捻る。自身の名前のついた技「ヨネクラ」だ。
着地では右足が一歩前に出たものの14.933点をマーク。2本目では「ヨー2」を披露し14.
633点。
「うまくまとめられたので、予選としては合格点です」
米倉自身が一定の手ごたえを得られたパフォーマンスにより、全体4位の成績で決勝進出を決めた。
米倉は今年の6月、大きな注目を集めた。東京五輪の代表選考を内村と争ったからだ。
オリンピックの代表は団体4名のほかに個人の枠として1つの種目のスペシャリストを対象とした1枠があった。4月の全日本選手権、5月のNHK杯、6月の全日本種目別選手権が対象となっていた。
選手たちの競争は激しかった。そして最後に競り合ったのは、鉄棒の内村航平と、跳馬の米倉だった。
その最後の試合となった全日本種目別選手権でも、今回の世界選手権同様に、1本目に「ヨネクラ」、2本目に「ヨー2」を披露し高得点をマーク。内村の鉄棒が終了するのを待った。内村の演技は、本人が納得いかなかったことを試合後に語ったように、完璧には遠かった。それでも最終的に内村が米倉を上回り、代表の座は内村が手にした。
終わってみれば、2人の差は0.001点。僅差と言うのもはばかられるほどのごくわずかな差であった。しかも米倉の得点は、2019年世界選手権跳馬の金メダルを上回るものだった。この事実は、両者の争いの熾烈さとレベルの高さを物語っていた。
その中で代表を射止めた内村は、五輪本番で納得のいく演技ができなかったため「米倉に申し訳ないです」と予選を終えてから口にした。米倉を認めているからこその言葉だった。
シルバーコレクターからの脱却
米倉は、体操選手であった祖父と父のあとを追うように、幼少時代に体操を始めた。体操を続ける中で全国大会に出場し、上位の成績を残すようになったが、高校時代は「勝ちきれない」ことも少なくなかった。高校3年生のときにインターハイ、高校選抜、全日本ジュニアの跳馬ですべて2位であったことは象徴的だ。