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[父&母連続インタビュー]金メダリストの両親は「教育論」を語りません 須崎優衣
posted2021/10/23 07:01
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
JMPA
レスリング女子50kg級の須崎優衣は全試合を通じ失点0、テクニカルフォール勝ちと圧倒的な強さで金メダルを獲得した。その強さはどう培われたのか。両親に尋ねた。
須崎の父、康弘も実はレスリングの選手であった。引退後も仕事のかたわら長年指導にあたってきた経歴を持ち、姉もレスリングの選手であった。そして須崎は父がコーチを務めるクラブでレスリングを始めた。「父子鷹」を想起させるが、康弘の話は異なっていた。
「レスリングをさせたい思いはありましたが、やらせたということはありません」
きっかけは「たまたま」だった。
「海水浴に行ったら知り合いの(レスリングの)先生の家族も来ていました。優衣と同年代の男の子たちがいて、砂場で相撲をとったりしました。すると優衣がいい動きをするので『あれ?』と感じて、先生も『優衣ちゃん、やったら』と言ったのです。『今度行ってみようか』と誘って、僕が教える松戸ジュニアレスリングクラブに一緒に行きました。小学1年生のときです。ただ、子どもたちは20、30人いたので優衣だけ細かく指導することはありませんでした。優衣はもうやりたい放題(笑)。カーテンに隠れたり、トイレに逃げてみんなで探したり。友達ときゃあきゃあやりながら練習を楽しんでいました」
母の和代にも競技に格別の思いはなかった。
「幼稚園の年中からピアノを8年間、小学1年生から4年生まで水泳もやっていましたし、レスリングは体力作り程度の位置づけでした。家の中に練習環境を整えて、みたいな選手のご家族の話も聞きますが何もなく、家ではレスリングは話題にすらなりませんでした。練習も週1回、5年生のときで3回ほどです」