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《引退》阪神・岩田稔が明かした“号泣会見”と病気から逃げなかった16年間…ビールかけが実現したら「あかんと言われても行く」
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/19 11:03
質問する記者も涙した岩田稔の引退会見。家族への想いを聞かれて涙が溢れ出した
――岩田選手は「1型糖尿病」という病気と闘いながらのプロ生活でした。引退会見でもお話しされていましたが、この16年間は「よくやった」なのか、「もっとできた」なのか。
自分を褒めていいのであれば「よくやった」ですかね。プロ野球は1年、1年、結果を出さないと続けていけない仕事。家族も守らないといけませんでしたし、そこで必死に食らいついていった結果が「16年間」という数字になったのかなと思っています。
――「病気」が野球をやめる理由になることだってあり得た中で、葛藤も多かったと思います。
逆にそれが背中を押してくれた部分もすごくあって。これも引退会見で触れましたが、入団時に「1型糖尿病の人たちの希望の星になりたい」ということを大々的に話したので、それをしっかり見せていけるのは自分しかいないと思っていました。病気を理由に逃げることは、絶対にしたくなかったので。
――現役引退の報道が流れ、同じように病気を抱えながら生活する人たちからもたくさん言葉が届いたと思います。
SNSを通して「励みになりました」という言葉をたくさんいただきました。同じ境遇の方々がこうやって言葉をかけてくれるだけで、野球をやっていてよかったと思います。本当にここまで応援していただいて、感謝しかないです。
――同じ「1型糖尿病」と闘うサッカーJ1・ヴィッセル神戸MFセルジ・サンペール選手からもコメントがありましたね。交流があったと聞きました。
ともに闘ってきたアスリートとして、とても光栄です。まだ日本では「1型糖尿病」がそこまで認知されていません。もっと認知されるように、根治に向けて活動していきたいと思います。サンペール選手にも現役選手として頑張ってほしいです。応援しています。
高2の12月、風邪をひいて感じた異変
――改めて病気についても触れさせてください。岩田選手が患った「1型糖尿病」とはどんな病気なのでしょうか。
膵臓からインスリンというホルモンが出なくなる病気で、それを毎食前に注射を打って補う。よく混同されるのが「2型糖尿病」で、それは生活習慣が主な原因です。たとえば血糖コントロールが乱れている中での暴飲暴食だったり。だからよく「不摂生しているんだろ」とか言われたこともありましたね。発症する確率も圧倒的に「1型糖尿病」の方が低いですし、思い切って病名を変えたらいいのにと思うぐらい。その辺りの認知についてもこれから何かできないかと思っています。
――発症は高校生(大阪桐蔭)の頃。当時はどんな心境だったのでしょう。
高校2年の12月ぐらいだったと思います。風邪をひいてから異変を感じるようになりました。風邪をひくと体内に入ってきたウイルスと体が闘いますよね。僕の場合は、本来は攻撃してはいけない膵臓を攻撃してしまったパターン。だから誰にでも発症するリスクはあるんです。年が明けた1月には体重が落ちて、ガリガリに。トイレにも10分に1回ぐらい行ってました。寝れない日々が続き、水を飲んでも喉が渇くし……といった状況でした。
――そこからずっと病気と付き合ってきたわけですよね。
もう20年ぐらい注射を打ち続けています。「1型糖尿病」の治療として大事になるのが、インスリンを補う注射と食事、運動、この3つを上手くコントロールすること。これが崩れると、最悪のケースでは失明したり、指先が壊死したりといった事例がたくさんあります。幸い、食事や運動の面は日頃から気を使わなければいけない職業だったので、インスリンの注射さえ気をつけていれば、大きな支障はありませんでした。ただ、この病気は“小児糖尿病”と呼ばれるほど、子どもたちに発症するケースが多い。僕は高校生だったので病気について勉強することができましたが、子どもではなかなか難しい。だからこうやって発信していくことが大事なのかなと感じています。
――岩田選手のことですから、これからのプランをしっかりと考えていると思います。この先、どんな夢を描いていますか?
社会人“ゼロ年生”なので、正直に言えば何をやったらいいか見えていない自分もいます。ただ、(現役時代からやってきた)1型糖尿病に関する活動は続けていきたいと思っています。それを形にすることを今、考えている状態ですね。
同じ境遇の人たちに一番に伝えたいのは、病気だからといって夢や目標を諦める必要はない、ということ。それを証明できた16年間だったと思うので「やりたいことを見つけたら突っ走っていい」という思いを伝えていきたいです。