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落馬事故で大ケガ「ああ、もうクロノジェネシスには乗れない…」最強牝馬を一番知る騎手が明かす《彼女の意外な性格》

posted2021/10/08 17:04

 
落馬事故で大ケガ「ああ、もうクロノジェネシスには乗れない…」最強牝馬を一番知る騎手が明かす《彼女の意外な性格》<Number Web> photograph by Photostud

第100回凱旋門賞に出走したクロノジェネシス。鞍上はオイシン・マーフィー、左端が斉藤崇史調教師。

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軍土門隼夫

軍土門隼夫Hayao Gundomon

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Number1037号「運命の名牝」では、巻頭記事「ロンシャンに現れた夢の痕跡」で凱旋門賞を速報しているほか、「人馬一体の極致」では、斉藤崇史調教師、北村友一騎手のインタビューを通して、クロノジェネシスの強さの真髄に迫っています。今回は本誌に掲載できなかった、北村騎手が明かす「ドバイで感じたクロノジェネシスの新たな一面」を公開します。

 10月3日、フランスのパリロンシャン競馬場で行われた第100回凱旋門賞で、日本から遠征したクロノジェネシスはドイツのトルカータータッソから5馬身1/4差の7着でレースを終えた。

 敗戦は残念だったが、斉藤崇史調教師が「重馬場でも走れる馬ですが、それは日本の馬場だからで、ここの重馬場は違いました」とコメントを残したように、ひどく悪化した馬場状態が大きな敗因の一つであることは明らかだった。

 それでも、逃げるアダイヤーの2番手につけたクロノジェネシスは、残り200mまではもしかしたら、と思わせる走りを見せてくれた。直線、内のオープンストレッチから鋭く抜けてきたクリストフ・スミヨンのタルナワと、外から伸びたジェームズ・ドイルのハリケーンレーンに挟まれながら競り合ったシーンは、まさに鳥肌が立つような迫力だった。

「ああ、これでもうクロノジェネシスには乗れない」

 クロノジェネシスに騎乗していたのは、アイルランド出身のオイシン・マーフィーだった。今年のイギリスのリーディングでトップを走る(10月5日現在)名手は、しかしクロノジェネシスに関しては「代打」だった。もし怪我をしていなければ、その背には北村友一が乗っているはずだったからだ。

 今年5月、北村は落馬事故に遭い、復帰まで1年という大怪我を負った。6月の宝塚記念は急遽、クリストフ・ルメールが起用され、クロノジェネシスは見事にこれを勝利。秋の凱旋門賞遠征へ弾みをつけた。

 怪我の直後、その深刻さを悟った北村が最初に思ったのは、ああ、これでもうクロノジェネシスに乗れない、ということだった。

「だって、凱旋門賞ですよ」と北村は言った。落馬は、3月のドバイシーマクラシック2着から帰国し、出走プランが具体的に検討され始めた矢先の出来事だった。

 デビューから追い切りも含めすべてのレースに跨ってきた北村を、斉藤調教師は「間違いなく、クロノジェネシスのことをいちばんよく知っています」と断言した。

 その北村にクロノジェネシスとの日々で思い出に残っていることを訊くと、少し意外で、しかしなんとも胸の温まる答えが返ってきた。

 それはドバイシーマクラシック出走のため、UAEへ遠征したときのことだった。

【次ページ】 「クロノジェネシスはまるでペットでした」

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