令和の野球探訪BACK NUMBER
「こんな選手がいたのか!」21世紀枠の“超天然素材”前田銀治が秘める無限大の可能性《ドラフト・11球団から調査書》
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2021/10/04 06:00
稲木監督が「超天然素材」と呼ぶように、高校生らしいハツラツとしたプレーを見せる前田銀治。センバツでの活躍でたちまちドラフト候補の1人になった
「バント練習が上手くできなくて、一塁駆け抜けた後にヘルメットを叩きつけたんですよ(笑)“感情を露わにするにしても、そのやり方は違うんじゃないか?”と怒りました。何もない子よりは良いけど“感情の出し方が違うぞ”とね」
クールに流したり、笑ってごまかしたり、酷く落ち込んでしまったり。そうした球児も多くなっている昨今で、発露の仕方は悪かったにせよ感情を露わにできるのは、それだけの気持ちで練習に向かっているからこそだろう。
前田の野球への純粋さが顕著に表れる出来事は、他にもある。
現在の体格を作り上げるにあたって大きな転機となったのは、昨春の全国一斉休校と1回目の緊急事態宣言時だ。選手たちの自発的な行動を促すことでチームを強化してきた稲木監督は、選手たちにLINEグループを作らせた以外は特に大きな指示はしなかった。その中で前田は誰に言われるでもなく、練習再開時に皆が驚くような大きな体で帰ってきた。
父からの唯一の助言だった走り込みも実施していたが「何もすることがなくて、体動かしたくてたまらないという状況で、バクバク食べていました(笑)」と、約3カ月で5キロもの増量に成功し、見違える体になっていた。
体重増加で“脱力”を習得
大きくなった体に技術と実戦感覚が追いつかず、夏の代替大会はスタメンで出場しながらも代打で交代を告げられるほどだったが、この悔しさも燃料に変えた。せっかくパワーをつけたのだからと、脱力に注力した。
「ボールを破裂させるという打撃のイメージは変わらないのですが、構えた時点で“どれだけ脱力させるか?”をテーマにしました」と、チームトップの打率.364を記録。チームは県大会準々決勝で甲子園常連の静岡高校を破るなど4位入賞を果たし、21世紀枠でセンバツに出場することになった。
そして、センバツでの躍動で高い評価を掴み取るわけだが、その活躍の予兆は当日の朝からあった。