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「W杯優勝は不可能ではない」トルシエが認めた日本サッカーの可能性と、「FIFAランク1位は不可能だ」の理由
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2021/10/02 11:02
日本代表監督として日韓ワールド杯を含む4年間指揮を執ったトルシエ。国際Aマッチの通算成績は23勝12敗15分だった
――それでは日本代表に話題を変えますが、あなたの代表は2002年W杯でベスト16に進出し、2010年には岡田武史監督のチームが、2018年は西野朗監督のチームがやはりベスト16に進みましたが、そこでナイーブさを露呈して敗れました。未熟であるから敗れたのは同じでも、未熟さのレベルで進歩があったと思いますか?
「それは最初の質問と関連している。私にとって日本の本当の結果は、ベルギー戦やトルコ戦の結果ではない。それらはプレーの結果であり、審判の判定や戦術的な選択の問題だった。あるいはさきほど語ったように単に選手の経験不足の問題だった。
ベルギーの日本戦の出来は酷く、日本はベルギーを上回っていた。しかしベルギーの選手には経験があったのに対し、日本の選手が所属するクラブでは同じ経験を得られなかった。つまり問題は個人に関することだ。
代表のレベルを決定づける選手個々の経験値
監督は試合に向けて選手を選択する。そのうえで自身のプレー哲学と戦略を実現しようとする。だが残念ながら、成熟度や経験、生き様に関して監督は何も関与できない。経験不足に監督は対処できない。日本の選手たちが抱えていたのはそうした経験不足だった。そしてその経験不足が、選手を大きくすることを妨げていた。日本人選手は、そこまでのビッグクラブに所属していたわけではなかった。
プレーは悪くないし規律もある。プレーに関してはそれなりの経験もある。だが本当のトップレベルと対峙したときに差が露呈したのは、パスの強度や正確さであり、必要なときに必要なだけスプリントできるかだった。そうしたプレーをする経験を彼らは欠いていた。
そうした経験を私は選手たちに言葉で伝えられない。その経験とは、それぞれの行動を決める決断であり態度である。その点で日本はずっと遅れていた。
だからブラジルと日本の違いはどこにあるかといえば、それはプレーのモデルではなく選手の経験だ。日本はそのレベルで、十分に優れた選手がまだいない。まだまだ経験が足りない。だからナイーブさを露呈した。
もちろん監督に責任があるが、そのレベルで問題になるのは選手の成熟度であり、違いが生まれるのも成熟しているか否かに起因している。成熟とは経験であり、年齢でもある」