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「デイブが来てから精神力が60%UPした」ラグビー代表を支えるメンタルコーチが明かす“心の強化”、23年W杯までに必要なことは?
posted2021/09/27 11:02
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph by
Kevin Booth sportpix
君たちは度胸のあるライオンになるのか、それとも臆病な羊になるのか――。
2019年にラグビー日本代表メンタルコーチに就任して以降、デイビッド・ガルブレイス(49)氏は幾度となく、そんな言葉を選手たちに問いかけてきたという。
ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)が全幅の信頼を寄せるこの男は、ほとんど表舞台に出ることはない。それでも陰ながらチームの快進撃を支え、日本中に感動をもたらした19年W杯の桜の軌跡の裏には、ガルブレイス氏の存在は切っても切り離せない。リーチ マイケルが「デイブ(ガルブレイス)が来てチームの精神力が60%UPした」と語れば、田村優は「デイブがいなければ、活躍できていたかわからない」とまで賛辞を送る。
ニュージランドの臨床心理学者である同氏は、ラグビー以外でも多くのアスリートの強化に携わっており、東京五輪で3つのゴールドメダルを掲げたカヌーのリサ・キャリントンなど、3大会連続で母国のメダリスト輩出にも寄与。そんなガルブレイス氏にラグビー日本代表の秘話、そして2023年W杯に向けて強化を進める“ブレイブブロッサムズ”の現在地について聞いた。
チーム全員にあった「心の枷」
――日本代表コーチに就任した際、あなたの目には日本代表チームはどう映っていましたか?
チーム全員が何かしらの『心の枷』のようなものを持っている、と感じたことを覚えているよ。ミスをしたらどうしよう、完璧なプレーをしなければいけない、というような固定観念に取り憑かれているように映ったんだ。
私は最初のミーティングで、「このチームの目標は決勝トーナメント進出のようだが、なぜ“優勝”ではないのか」と問いただした。全員がライオンのような心を持てれば、優勝を狙えるというのが私の考えでもあった。自分の限界を決めず、さらなる可能性に挑戦する勇気を持て、と説き続けてきたんです。
もうひとつ選手に伝えてきたことは、不安や恐怖から逃げるのではなく、向き合え、ということでした。たとえばラファエレ ティモシーは当時、左肩の怪我の再発を恐れていましたが、彼のように何かしらの枷を感じている選手が多くいた。不安は誰にでもある。大切なことは、どう向き合うか、です。私は一人ひとりと不安との向き合い方を話していきました。
――メンタルコーチとして最初に取り掛かった仕事は何だったのか。
いくつかのリーダーグループを作り、発展させていく作業をジェイミーと進めていきました。19年W杯の時は、主将のリーチ マイケルを中心にチームには7人のリーダーがいました。ピーター・ラブスカフニ、田村優、稲垣啓太、流大、ラファエレ、中村亮土、松島幸太朗という面々。ジェイミーとトニー・ブラウン(コーチ)が決めた戦術を、リーダーが各グループに落とし込み議論を深めていった。その結果、彼らがチームのガーディアンとなっていった。
なぜリーダーグループが大切かというと、ラグビーに勝つということと別の目的もあった。それは個々に品位や責任感を持ってもらいたかったということです。心理学者の立場でお話しするなら、限られた時間で互いの意識共有、団結力を高める手段としてリーダーグループの質を高めることは有効な手法でもあります。