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「デイブが来てから精神力が60%UPした」ラグビー代表を支えるメンタルコーチが明かす“心の強化”、23年W杯までに必要なことは?
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph byKevin Booth sportpix
posted2021/09/27 11:02
2019年W杯の快進撃を支えたデイビッド・ガルブレイス氏。23年フランス大会に向けて強化を進める日本代表へのアプローチを教えてくれた
――日本代表選手の中で、最も変化を感じ取れた選手をひとり挙げるなら?
マツ(松島)やショウタ(堀江翔太)は、そのポジションで世界一といえる活躍を見せたと思う。ラピース(ラブスカフニ)も人間的に大きく成長した。ただ、1人挙げるとするなら田村優ですね。それは優が司令塔のポジションで、キッカーも務め、人一倍プレッシャーがかかる役割を与えられていたことにも関係します。1人で行うプレーがチームの誰よりも多く、優も自分のプレーになかなか自信が持てなかった。
1つ、例を挙げましょう。(突然、歌い出したガルブレイス氏)この歌をあなたは今ここで歌えますか? 歌えないのは、恥ずかしさや間違えたらダメだという気持ちが働くからです。優も最初は歌えない側の人間でしたが、それが次第に変わっていった。
――田村選手にはどのようなアプローチをしたのでしょう?
優とは週に1度は必ず個別に会話をしました。彼はもともと完璧志向が強い人間であり、なかなか自分の弱みをオープンに出来なかった。そんな優に対しては、「完璧である必要はない」と言い続けたんです。
ロシア戦の後のメディアの取材に対して、「緊張して眠れなかった」と優が言っていたことがありました。それを聞いて私は、彼は自分の弱みもオープンに出来るようになった、と感じました。これはプレッシャーと向き合い、自分で解決できる術を見けることができた1つの証明ともいえる。
おそらくアイルランド戦の前は、誰も我々が勝てるとは思ってなかっただろう。ただ優を含めたチーム全員は勝つことを疑わず、そのための準備を進めてきた。優はそんなチームの中でも、最も精神的にタフな選手になっていったと思います。
「先祖を知れ、自分を知れ」
――姫野和樹選手は、ガルブレイスさんの『先祖を知れという言葉で、ゾーンに入れたし、自分以上の選手になれた』と話したことがありました。
「先祖を知れ、自分を知れ」ということも私が選手たちに伝えてきたことです。繰り返しになりますが、人間は不完全な生き物で必ずミスをする。そのミスをした時、ありのままの自分を認めることです。苦しい状況にある時に自分を支えてくれるのはアイデンティティが確立されているか、ということです。
アイデンティティを確立するためには自分を知る必要があり、自分を知るためには先祖のことも知らなければいけない。コアの部分として、日本のジャージを着て、日本の力を証明するという心理状態の時、本来の力以上のものが出ることがある。それを私はゾーンに入る、と呼んでいます。
――ゾーンへの入り方を心理学的な観点から提唱することは、日本ではあまり馴染みがありません。ニュージランドでは違うのでしょうか?
ニュージランドでは多くの心理学者によってゾーンに入る方法が研究されています。しかし『先祖を知れ』という考えの部分は、一般的ではないかもしれませんね。私は少し常識から逸脱した心理学者なんだ(笑)。それでもよりベターなパフォーマンスを求めていく際の一つの要素として、ゾーンに入るという認識は日本代表チームには植え付けられたと思う。