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「ニシコリは僕に時間をくれなかった」 ジョコビッチが錦織圭の戦術に脅威を感じたワケ〈単なる17連敗ではない〉
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2021/09/06 17:00
直接対決で17連敗となったとはいえ、ジョコビッチ相手に第1セットを取った錦織。可能性を感じる戦いぶりだった
これは16年のマドリードオープンと同年のイタリア国際を指している。マドリードはストレート負けだったものの、第2セットはタイブレークまで粘った。後日、錦織は「まだ差はあるが、だいぶ近づいている気はした」と話した。一方のローマは、第3セットのタイブレークで決着がつく接戦だった。両者の総獲得ポイントは錦織が111、ジョコビッチが112だった。
この大会で、錦織は対戦前にこう話していた。
「じっくりプレーして、我慢しながら、できればチャンスを見てアグレッシブに、というのがベストだと思う」
「じっくり」は、実は5年前に錦織が意識したキーワードでもあったのだ。これをほぼ完璧に実践し、ジョコビッチといかに戦うかという難問の答えに最も近づく試合となった。
単に「17分の1」で片づけられる試合ではない
だが、試行錯誤はその後も続くのだ。どの程度までリスクを抑え、安全にいくか。そして、いかに精度を落とさずに攻められるか。「じっくり」の案配と、ギアを切り替える勘所を見つけるのは容易ではなかった。また、ジョコビッチ側も事前の研究をもとに、試合の中での微調整で対応してきた。
今回の対戦で錦織は「じっくり」の方向に大きく振れた戦術を試みた。これは少なくとも「1セット半」ほどは成功し、ジョコビッチをあわてさせた。一つの大きな成果だろう。十分な体力で臨み、「じっくり」から「アグレッシブ」へうまくギアを切り替えれば……。そんな期待も持たせてくれた。
これは単に「17分の1」で片づけられる試合ではなかった。
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