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「ニシコリは僕に時間をくれなかった」 ジョコビッチが錦織圭の戦術に脅威を感じたワケ〈単なる17連敗ではない〉
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2021/09/06 17:00
直接対決で17連敗となったとはいえ、ジョコビッチ相手に第1セットを取った錦織。可能性を感じる戦いぶりだった
ジョコビッチは強靱な精神力の持ち主だが、事前のゲームプランが大きく狂い、スコアで先行されるとプレッシャーがかかり、メンタルが揺らぐことがある(強敵と認める相手との対戦時に限っての話だ)。このことは過去の対戦で分かっていた。
ただ、じっくりやるというのは普段から実践しているテニスではない。錦織は言う。
「早い展開からどんどん打っていくのが自分のテニス」
我々にも「早い展開」のイメージが強い。じっくりやるというのは、180度とは言わないまでも、大幅なアジャストが必要だ。それをジョコビッチにぶつけたのだ。
ジョコビッチも賞賛「彼のプレーは素晴らしかった」
戦術は見事に効いた。相手のミスを誘い、まさしくプレッシャーを与えた。ジョコビッチも試合後、錦織の戦術に脅威を感じたことを明かした。
「彼はあまりミスをしなかった。いつも彼はリスクの高いテニスをする。何年も前から何度も対戦しているから、僕にはよく分かっているんだ。でも、(今日の)彼のプレーは素晴らしかった。僕に時間をくれなかった。彼は僕を居心地悪くさせよう、守りに入らせようとしていた」
ところがジョコビッチは、すぐさまこの戦術に対応してしまう。コメントには実は続きがある。
「1セットか1セット半くらいは、それ(錦織の狙い通りのプレー)ができていた。彼のペースに順応してからは、気分よくプレーできた」
第2セット以降、錦織は序盤のプレーの精度が持続できなくなった。そこがジョコビッチの適応力だ。錦織には次第に疲れが目立ち始め、ジョコビッチが調子を上げてきたときに、それを押さえ込むギアの切り替えもできなかった。錦織の戦術はジョコビッチにひと太刀浴びせることには成功したが、骨を切るには至らなかった。