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「ニシコリは僕に時間をくれなかった」 ジョコビッチが錦織圭の戦術に脅威を感じたワケ〈単なる17連敗ではない〉
posted2021/09/06 17:00
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
Hiromasa Mano
錦織圭がまたも厚い壁に跳ね返された。
ノバク・ジョコビッチにはこれで17連敗(通算2勝18敗)。ガエル・モンフィスと並び、ジョコビッチにもっとも長く負け続けている対戦相手となった。最後に勝ったのは7年前、準優勝した14年全米の準決勝での対戦だ。
連敗記録は誇れるものではないが、両者の戦いにはそれほど長い歴史があったことを最初に示しておきたい。あと少しで勝てそうなこともあれば、直近の対戦だった東京五輪のように、こてんぱんにやられる試合もあった。19年全豪など、ジョコビッチと当たる前に接戦の連続で疲れが溜まり、試合にならないこともあった。
ジョコビッチにどうしたら勝てるのか?
この厚い壁にどう挑むか。対戦の2日前、錦織はこう話していた。
「やりたいことは、なんとなく頭に入っている。やりたいことがしっかりできて、自分のプレーが良ければチャンスはあるのかなと」
お、と思った。ここは「今までと違うことをやらなくてはいけない」くらいにとどめておいてもいいのに、「やりたいこと」があるという言葉を選んだ。内容は明かさなかったが、対戦に前向きな気持ちを持っているのが感じられた。
サーブ&ボレーを続けたり、ドロップショットを連発したりといった奇襲を考えていたわけではないだろう。そんな目くらましが通用する相手ではない。では、「やりたいこと」とは何だったか。
試合が始まってまもなく、その輪郭が見えてきた。
ボールが良く伸びている。しかし、ウィナーを狙いにいってはいない。ボールの質を高いレベルに保った上で、比較的安全なセンター付近とクロスに深く打つことを意識しているようだ。そうしてチャンスの拡大を待ち、満を持して角度をつけたクロスやダウン・ザ・ラインを放つ。序盤はそんなプレーだった。
「じっくりラリー戦をしてみよう」――これが「やりたいこと」だった。
過去の対戦では「先にブレークされて余裕を持たれ、思い切りプレーされる」流れが増えていた。これを避けるために、リスクのあるプレーを減らした。そうして、できるだけ相手のミスを誘い、「プレッシャーのかかるスコア」に持っていこうという狙いだ。