濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
<スターダム>「心の闇を全部刻み込む」悲願の王座奪取、スターライト・キッドが“涙なし”のワケ…リーグ初戦、彩羽匠のオーラもすごかった
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/09/04 11:00
ハイスピード選手権でなつぽいに勝利し戴冠を果たしたスターライト・キッド。
ハイスピード選手権ではなつぽいと“闇堕ち”キッドが激突
メインイベントでは、王者なつぽいに闇堕ち=ヒールとなっての大イメージチェンジが話題のスターライト・キッドが挑むハイスピード選手権が行なわれた。リーグ戦の最中にタイトルマッチを組むというのも相当に大胆だ。裏目に出ればリーグ戦という“本筋”の流れがボヤけることにもなりかねない。だが今回に関して言うと、キッドのイメージチェンジ、リーグ戦での好調(3勝1敗1分で首位)がタイトル奪取への気運につながった。
体は小さいが動きが速くテクニカル、空中殺法を得意とするキッドは、スターダムの中でもとりわけハイスピード王座との親和性が高いファイトスタイルと言っていい。しかし、過去7度ベルトに挑んで未戴冠。「今度こそ」という思いは本人だけでなくファンも共有していた。「これでダメなら……」という危機感も強かっただろう。かけるものが、期するものが大きな試合だから、団体もメインにしたのではないか。
実際、なつぽいとキッドの攻防はメインイベントにふさわしいものだった。ハイスピード選手権はその名の通りテンポの速い技の競い合いで、それが“軽さ”に見えてしまうこともあるのだが、2人の闘いはスピーディーかつ重みがあった。なつぽいにとっては3月の日本武道館大会で巻いた大事なベルト。負傷欠場から復帰して初の防衛戦でもある。
「とことん潰してやる、という気持ちだった」
なつぽいは得意のジャーマン・スープレックスをエプロンで繰り出し、投げ捨て式ジャーマンもブリッジを効かせて急角度に(本人曰く“ぽい捨て”ジャーマン)。キッドはラ・ケブラーダを初披露。どちらも普段とは違う引き出しをあけ、何度も雄叫びをあげてベルトへの執念を見せる。どちらも“華麗さ”は標準装備レベル、その上で気持ちの部分がより目立った。
そういう闘いで、過去7度味わった屈辱が強みになった。最後に上回ったのはキッド。ムーンサルト・プレスから“闇堕ち”後の新技「黒虎天罰」を決め、それでも自らフォールの体勢を解いてトドメの一撃。スター・スープレックス・ホールドだ。
「完璧に勝つ、とことん潰してやるという気持ちだった。黒虎天罰の上にはオリジナルのスター・スープレックス・ホールドがあるってことを忘れるなよ」(キッド)