甲子園の風BACK NUMBER
智弁和歌山優勝のウラに“元主将”のデータ分析…中谷監督が期待していた正捕手候補「しんどかったけど、やっててよかった」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2021/09/02 17:05
和歌山大会ではホームランを放つなど、勝利に貢献した石平創士(3年)。甲子園では背番号12をつけてチームを支えた
際立った個が少ないからこそ、宮坂主将は「挑戦者の気持ちを忘れず全員野球で」と言い続けてきた。その言葉通りに、甲子園ではベンチ入りした18人がすべて出場して役割を果たし、裏方も含め全員の力を結集して日本一をつかみ取った。
宮坂は優勝インタビューで、「チーム39人全員で獲れた日本一は本当に最高です。最強のチームだと思います」と胸を張った。
選手の成長にも、日本一にも、一番驚いているのはもしかしたら中谷監督かもしれない。
「監督にぶつかっていけない控えめな、優しい選手たちで、打っても跳ね返ってきていないように感じていたけど、僕が言っていたことは確実に彼らの中で消化してくれていたんだなと思いました。最後の最後でやっと通じ合えるようになったと思ったら、もう、終わり……」と少し寂しそうに笑った。
最後のキャッチャーフライ
決勝戦前の公式練習。この日のノックも中谷監督はキャッチャーフライに苦労していた。1本目はマウンド後方まで飛んでしまった。2本目はバックネットにかかった。練習終了時刻が迫ってくる。
「諦めようかなとも思ったんですけど、いや、上がるまでやろうと思って」
ホームベースの後ろに、背番号12の石平がマスクを被って構えていたからだ。
正捕手は2年生の渡部が務めており、決勝で石平に出場機会を与えるのは難しいと予想していた。だから、せめてこのラストプレーだけは。
3本目はホームベース近くに上がり、石平がしっかりとキャッチした。
石平は怪我から復帰し、和歌山大会準決勝では代打で3点本塁打を放った。甲子園での出番は、準々決勝での代打の1打席のみで、ファールフライに倒れたが、優勝後、「嬉しいです。しんどかったけど、やっててよかった」と声を弾ませた。
3日後、後輩たちの初陣を応援に来ていた石平に聞いた。「野球は好きですか?」
「はい!好きです」
満面の笑みで即答した。卒業後は、大学に進学して野球を続ける。
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