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「甘えん坊」だった智弁和歌山エース中西聖輝を覚醒させた“ライバル”小園健太とイチローの「強者のメンタル」《甲子園秘話》
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/09/01 17:03
甲子園決勝では4回からマウンドに立った智弁和歌山のエース中西聖輝
中西は近江戦をこう自己評価した。
「9回は2アウトから前の試合(高松商戦)がよぎったので、そこからまた気持ちを引き締めて投げることができたのがよかった」
緊張を掌握し、試合を投げ切る。
中西にとっては、それができて初めて、マウンドを楽しめたことになるのだろう。
最後にあげた“雄叫び”の真相
監督の中谷の目に映った、準決勝での中西の投球。それは、真のエースそのものだった。
「本当に心から『任せられる』と思ったのは、昨日の試合(近江戦)を見たからでした。今の中西聖輝なら決勝も任せられる、と」
智弁学園との決勝戦。4回に見事な火消しを演じたエースは、マウンドを守り抜いた。
最後の打者を三振に打ち取ると、中西はグラブを力強く叩き、拳を握り締めながら「しゃー!」と雄叫びをあげた。
選手たちは相手を尊重し、「礼に始まり、礼に終わる」精神を表すため、マウンドで歓喜の輪を作らず、淡々と整列した。だから、中西のそれも控えめだったと思いきや、実際はそうではなかったらしい。
「本当は優勝が決まっても堂々としておこうって思っていたんですけど、あまりにも嬉しすぎて……出してしまいました」
優勝投手が、照れくさそうに笑う。
“誰も見ていない”無観客の甲子園。智弁和歌山のエースは、インターネットやテレビなどから日本中の視線が注がれていることを自覚し、マウンドで自分を貫いた。
「次のステージでもこの経験を生かして。優勝ピッチャーを自信にして投げ続けたいです」
新たな挑戦は、日本一の歓喜のなか自分の口で表明した。
最高峰の舞台でも、中西聖輝は威風堂々と。
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