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「海外配送ストップでフレームが届かない!」絶体絶命のパラ金メダリストを“米フィギュア代表”が救った話
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2021/09/01 17:00
パラリンピック4大会連続出場の車いすアスリート、タチアナ・マクファデン 。前回リオでは4つの金メダルを獲得し「鉄の女王」と呼ばれる
陸上でカーボンシューズやスーパースパイクといったテクノロジーの力が注目を集めたが、車いす陸上の世界も同様だ。ロンドン五輪以降多くの選手がアルミ製からカーボン製のレーサーに続々と移行している。カーボン製は軽く、また振動にも強いという特徴を持つ。
マクファデンもリオ五輪前から使用しているが、コロナ前からレーサーのフレーム部分の調子が少し悪くなっていたため、2020年3月の東京マラソンの際に新しいフレームを受け取る予定にしていた。しかしコロナで渡航中止に。そのため海外配送を依頼したが、コロナが世界中に蔓延すると海外からの配送は世界中で滞った。
母デボラさんも打開策を探し、「なんとか米国に輸送してもらえないか」と必死に懇願したが、フレーム会社はもちろん、運送会社も成す術がなかったという。
壊れたフレームを接着剤で留め、だましだまし練習していたが、陸上のトラックとマラソンで1日中走るレーサーはボロボロだった。1年以上もそういった状態が続き、レーサーも限界に近づいていた。
輸送が無理ならば直接日本からもって来られる人はいないかと、米国オリンピック&パラリンピック委員会を通じて、日本行きの予定のあるスポーツ選手やスポーツチームをあたった。飛込み代表が今年4月のテスト大会に出場すると分かったが、テスト大会は延期に(その後、5月に実施)なってしまう。
最後の頼みの綱が切れ、がっくりしたマクファデンにスタッフから思わぬ情報がもたらされた。
「フィギュア代表なら持ってこられるかも」
「フィギュアの米国代表が世界フィギュアスケート国別対抗戦で今、日本に向かっている。彼らなら持ってこられるかもしれない」
そこからの行動は迅速だった。フィギュア代表にフレームの受け取りを、フレーム会社に米国代表の宿泊先への配送を依頼すると、フィギュア代表は受け取りから米国への配送を快諾。フレーム会社「オーエックスエンジニアリング」も即時の配送を確約してくれた。
その後、マクファデンは1枚の写真をSNSに載せている。その写真には2021年世界選手権金メダルのネイサン・チェン、チームキャプテンのジェイソン・ブラウンを含めた世界フィギュアスケート国別対抗戦の銀メダルメンバーと、マクファデンが受け取ったフレームの入った箱が写っていた。