オリンピックPRESSBACK NUMBER
「首が“くの字”に曲がって…」テコンドー山田美諭27歳が語る“壮絶な過去”…現在は信金に毎日勤務「庶務の勉強をしています」<五輪5位入賞>
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/09/03 17:00
東京五輪では、日本人として初の準決勝に進出し5位入賞を果たしたテコンドー日本代表の山田美諭。現在は所属する城北信用金庫で働く日々を送っている
ヒザのケガをきっかけに、山田の練習態度は明らかに変わった。彼女の恩師である大東文化大の金井洋監督から「本気でオリンピックに出たいと思っているのか?」と叱咤されることもあった。当時の山田は「そんなことはありません」と反発したが、いまになってみれば「あの頃の自分は自信がなかった」と本音を漏らした。
「自分がオリンピックでメダルを獲るということも信じきれていなかった。口では目指していますというけど、実際には口で言っているだけで正直いけるなんて思ってもいなかった。それが練習態度にも現れていたんじゃないですかね」
ただ、ヒザと首のケガには根本的に大きな違いがあった。「ヒザだったら、手術をすれば治る。でも、首は治し方もわからないし、ドクターからは『手術はできない』と言われたので途方に暮れました」
藁にもすがりたい思いの山田に金井監督はとっておきの切り札を出した。イチローを支えたトレーニング理論で知られるワールドウィングの敏腕トレーナー、小山裕史氏のもとに連れて行ってくれたのだ。
効果は絶大。山田は「それまでの私はミットも蹴れなかったのに、次の週には蹴れるようになっていました」と証言する。「それまでは練習したら、すぐコルセットをつけるという繰り返しだった。ワールドウィングに行っていなかったら、オリンピックに出られていたかどうかもわからない」
小山氏は、山田に首が痛くないような蹴り方や体の動かし方を教え、治療もしてくれたという。「それでみるみるうちに良くなった。それから痛みが出ることも減った。たとえ痛みが出たとしても回復するまでの期間が短くなりました。本当にすごい。私も、ビックリしました」
「現在は庶務の勉強をしています」
オリンピックが終わってから山田は所属する城北信用金庫に職員として毎日通っている。
「今までは週1回の出勤でしたが、今後は職員としての仕事をもっと覚えたい。現在は庶務の勉強をしています」
2024年のパリ・オリンピックを目指すかどうかはまだ決めていない。
「昨日も大東文化大に金井監督やコーチにそのことを相談しに行ったんですけど、答えを出すまではちょっと時間がかかりそうです。年内には決めたいと思っています」
ヒザも首も完治したわけではない。山田の気持ちは揺れ動いていた。
「パリでも山田さんの試合を観たいと言ってくださる方が多いので、気持ちの整理をしているところです。ただ、やるとなったら、全力でやりたい」
3年後、山田は30歳になっている。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。