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「首が“くの字”に曲がって…」テコンドー山田美諭27歳が語る“壮絶な過去”…現在は信金に毎日勤務「庶務の勉強をしています」<五輪5位入賞>
posted2021/09/03 17:00
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Takuya Sugiyama
5位に入賞することはできたが、目標としていた金メダルには届かなかった。7月24日にテコンドー女子49kg級に出場してから1カ月、山田美諭(城北信用金庫)はまだ会場の幕張メッセに心を残したままの様子だった。
「まだオリンピックが閉幕したことが信じられないような不思議な感じです」
山田にとっては初めてのオリンピックだった。もちろん手元にメダルはないという意味で、結果には満足していない。「試合が終わってみると、メダルがあるのとないのとでは全然違うことが痛いほどわかりました」。
しかし、テコンドーの日本代表としては史上初めての準決勝進出だった。決勝に進出すれば、他の競技も合わせメダル内定第1号だったのでテレビ局は山田の動向に注目。急きょ地上波で山田の試合が生放送されることになった。
「テコンドーの試合が地上波で放送されるのは初めてだったみたいです」
その効果は絶大で、山田のSNSには初めてテレビでテコンドーを見た人たちからのメッセージが寄せられた。
「テコンドーを初めて見たけど、ファンになりました」
「元気と感動をもらいました」
過去にこれほど見知らぬ人たちから励ましの言葉をもらったことはない。
山田は喜びを噛みしめた。
「本当にテコンドーをやってきて良かったと心から思いました」
「トイレに行って隠れて泣いていた」
山田の笑顔の裏側には、人知れぬ苦労や涙が隠されている。去年3月、山田は練習中に大ケガを負った。首から転倒してしまったのだ。翌日、病院に行こうと思ったが、ベッドから動くことはできなかった。レントゲンを撮ったら、医者から「首がくの字に曲がっている。全治3カ月」と診断された。
1カ月前の国内代表選考会を勝ち抜いたことで、山田はすでに東京オリンピックへの出場切符は手にしていた。しかし、オリンピックに向け、自分が組手練習に励む姿を想像することはできなかった。
「首がビキッという感じになると、それだけで全く動けなくなってしまう」