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「あんな負け方を…」金足農戦の敗北から3年、近江の監督と選手が明かす“サヨナラ2ランスクイズ”への本音と“悪夢”が消えた瞬間
posted2021/08/27 17:06
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
KYODO
近江の夏の甲子園ベスト8進出が決まると、オンライン取材ではあるキーワードが賑わいを見せた。
金足農業――。
監督の多賀章仁はこれに関する質問を向けられると、穏やかに話しているようで、実は主題から遠ざけているように思えた。
「選手に勢いがありますし、甲子園でベストゲームを続けてくれていますから。今まで通りにやってくれれば」
とはいえ、あの記憶はそう簡単に消し去れるものではないはずだ。
3年前の2018年。近江は準々決勝で、金足農に屈辱的な敗北を喫した。
2-1の9回裏。無死満塁のピンチから、相手の9番打者・斎藤璃玖にスクイズを許す。サードの見市智哉が素早いフィールディングでファーストへ送球した瞬間、セカンドランナーの菊地彪吾がホームへ突入していた。まさかの2ランスクイズ。近江はサヨナラで甲子園の底に沈んだ。
当時中学生だった明石「あんな負け方をするなんて…」
金足農からすれば、それはシナリオ通りの「完璧」な作戦だった。
スクイズを決めた斎藤は打力こそないが、その分、バント練習に多くの時間を割き、状況に応じて様々なゴロを転がす鍛錬を積んできた。セカンドランナーの菊地は「チーム一の俊足」であり、思い切りのある走塁が持ち味だった。ふたりのスペシャリストが舞台に立っていた時点で、金足農にとっては大きすぎるアドバンテージだった。
奇襲と劇的すぎる幕切れに、世間は金足農に喝采を浴びせた。しかし近江にとっては、悲劇以外の何ものでもなかった。
この時、中学3年生で、19年春に近江への進学が内定していた明石楓大は、のちの先輩たちが絶望する光景に言葉を失っていた。
「あの試合は甲子園のスタンドで観戦していたんですが、正直、あんな負け方をするなんて思っていなくて……」