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Jリーガーを辞めてJリーグを目指す“矛盾” プロ3年で引退した井筒陸也の今「僕がJリーガーに戻ることにはなんの意味もない」 

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飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2021/08/26 11:00

Jリーガーを辞めてJリーグを目指す“矛盾” プロ3年で引退した井筒陸也の今「僕がJリーガーに戻ることにはなんの意味もない」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

関東サッカーリーグ1部に所属する「クリアソン新宿」で主将を務める井筒陸也(27歳)。わずか3年でプロを引退した元Jリーガーが見据えるものとは

 チーム内外の競争に打ち勝ち、さらに上のレベルでプレーするチャンスや、今よりも良い待遇を手に入れる――。

 それがプロの世界だというなら、井筒は最後までプロの世界になじめなかった人間である。

「大学時代に就職活動をした時期もあったんです。それこそ(クリアソン代表の)丸山(和大)にもその頃会っていますし。でも、ご縁があって徳島に入れていただいて。ただ、2年契約でスポーツ選手をやるのって、普通に就職することと比べてイカれてませんか。揶揄するわけではないですが、ショービジネスの踊り子がうまく踊れれば来年も、そうじゃなければサヨウナラ、って話じゃないですか。華やかで面白いんですけど、やっぱり心が削られるというか。

 それに、人生の大半を懸けてきたサッカーの成果が、高級車とかブランド品であることに虚しさも覚えるようになって。もちろん、徳島の人たちに元気を与えられているという実感もありましたけど、そもそも自分はなんのためにサッカーをしているんだろうかって……」

 丸山が井筒を訪ねて徳島までやって来たのは、そんなことを考えていた時期だった。

 2018年の夏、徳島の居酒屋で丸山は井筒にこう切り出した。

 新宿という場所で、リクが20年間やってきたサッカーを使って、街の人たちの心を豊かにしてほしい。世界を豊かにすることに、リクのサッカーを使ってほしい――。

 その言葉で、モヤモヤしていた井筒の頭の中が晴れていった。

「そういうことのためにサッカーを使えるなら素晴らしいな、そのために20年サッカーをやってきたと思えるんじゃないか、もっと大きな物語の中で自分の良さを生かせるんじゃないかって。もちろん難しい挑戦だということは分かっていましたし、給料も下がるんですけど、それでも価値があるはずだと。それでお世話になることにしたんです」

 株式会社Criacaoで働くにあたって、ビジネスに専念することもできたはずである。にもかかわらず、今なおサッカーを続けている理由もそこにある。

Jリーガーを辞めて、Jリーグを目指す

「本当の本当に、いつ辞めてもいいと思っているんですけど、まだサッカー選手としての自分にバリューがあるなら、組織に貢献したいという気持ちもあります。手段っぽい言い方になりますけど、自分がプレーヤーであることによって、言葉の力もやや変わってくるなと。20年サッカーをやってきた事実は変えられないので、生かしていく方向にしたほうが、僕の人生にもレバレッジが効くんじゃないかなって」

 だから、井筒はサッカー界に残り、ボールを蹴り続けているのである。Jリーガーを自ら卒業したにもかかわらず、チームのJリーグ入りを目指すという大きな矛盾を抱えながら。

「あれ? おかしいなって(笑)。僕がJリーガーに戻ることにはなんの意味もないから、どこまでサッカーを続けるかは決めてないんですけど、どこで辞めるかは明確です。J3のピッチは踏まない。自分自身のブランディング的に、それが筋なんじゃないかって。でも、クリアソン新宿がJクラブになることは、めちゃくちゃ価値があることだと思っています」

【続きを読む】後編「なぜ“新宿”からJリーグを目指すのか」(NumberWeb以外をご覧の方は下段、関連コラムよりご覧ください)

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