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「ダメだ、このままでは引退前と同じことを繰り返す」10000m新谷仁美(33歳)を変えた“世界トップに負けた夜”
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byTakeshi Nishimoto
posted2021/08/06 20:00
東京五輪8月7日に行われる陸上女子10000mに出場する新谷仁美
西本 次が7月11日のホクレン。5000mで15分35秒19。
森岡 1カ月前の復帰戦のタイムから考えると、普通の選手だと15分40~50秒ぐらいになるのに、それよりも上がっていたので、さすがだなと。ただし、気になったことがあります。1カ月前より驚くほど細くなっていたんです。身体に筋肉がついていなくてカリカリに痩せていて、軽さだけで走っている印象。ホクレンのレベルの高さを知っているから、相当追い込んで減量をしたのでしょう。
西本 実は横田さんと新谷さんは、世界陸上を「最短距離」で狙っていたんです。日体大記録会に出場したのは、ホクレンの参加標準記録を切るため。そしてホクレンに出たのは、12月のザトペック10の参加標準記録を作るため。そしてザトペック10で翌年の世界陸上ドーハの参加標準記録を破るという計画だったようです。
森岡 なるほど、そういう意図があったのか。それにしても横田はザトペック10なんていうオーストラリアのレースをよく知っていたなと感心しました。しかも、いきなり31分32秒。後半の5000mがイマイチ伸びなかったのが気になりましたが、優勝タイムが31分30秒だから、海外でも勝負できているのがすごい。
西本 復帰から半年で予定通り世界陸上の出場権を獲得です。
「ダメだ、このままでは引退前と同じことを繰り返す」
森岡 そして2019年です。普通、世界陸上10000mを狙うのであれば春先に3000mや5000mの試合を入れるものなんですが、新谷は全部カットして(笑)、本当に10000m中心の出場になりました。これも異例です。
<2019年>
1月13日 全国都道府県対抗女子駅伝 9区10km 31分06秒
4月23日 アジア選手権ドーハ 10000m 31分22秒63
5月19日 日本選手権 10000m 31分50秒43
6月30日 日本選手権 5000m DNS
7月20日 KBCナイトオブアスレチックス 5000m 15分20秒03
9月28日 世界陸上ドーハ 10000m 31分12秒99
11月10日 東日本女子駅伝 9区10km 30分52秒
12月1日 MINATOシティハーフマラソン ゲストランナー
西本 この2019年は新谷さんにとっては転機となる年です。
森岡 4月のアジア選手権では8800mぐらいからバーレーンのシタヤに離されて、負けました。ラスト3周、シタヤのラップタイムは73秒/72秒/70秒、新谷は75秒/74秒/73秒。これを見て、ダメだ、このまま行ったら引退前の世界陸上モスクワと同じことを繰り返すと思いました。いわば「自爆する」展開になってしまうな、と。そこで僕は初めて横田に連絡を取ったんです。