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「ダメだ、このままでは引退前と同じことを繰り返す」10000m新谷仁美(33歳)を変えた“世界トップに負けた夜”
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byTakeshi Nishimoto
posted2021/08/06 20:00
東京五輪8月7日に行われる陸上女子10000mに出場する新谷仁美
西本 ここから森岡さんが横田コーチにラップタイムを送ったり、練習メニューにアドバイスをしたりという関係になったんですよね。ただ、この頃はまだ新谷さんは、横田コーチに練習メニューを任せていないんですよ。だから引退前の新谷仁美のまま戦っている。モスクワと同じように先頭で引いて、後半差される。
森岡 5月の日本選手権もそう。3200mまでは鈴木亜由子(東京五輪マラソン代表)が引いて、そこから9200mまで新谷が引っ張ったけれど、最後に鈴木と鍋島莉奈に抜かれてしまう。馬車馬のように引いて、最後に差されたモスクワやオリンピックの10000mを見ているようでした。
世界陸上で負けた夜「そんなに頑張らないで…」
西本 タイムは戻ってきたけど、世界と戦うという意味では復帰前から「進歩」がなかったとも言えますね。
森岡 その後、タイムが出やすいベルギーのナイトオブアスレチックに出たから、僕はここで記録を狙いにいったと思ったのだけど、意外と伸びなかった。ただ、その割に9月の世界陸上ドーハはよく走りましたね。
西本 世界陸上で印象的だったのはトップグループが上げたときに、新谷さんとハッサンだけが反応して追いかけたんです。ところが、そこからハッサンに離されてしまい、世界トップとの差を新谷さんは目の前で見せつけられた。
森岡 この世界陸上でのタイムは東京五輪本番の参考になると思っています。このとき新谷を含む先頭集団は5000mを15分31秒で通過。ただし後半がまったく違います。優勝したハッサンは14分46秒ですが、新谷は15分42秒かかっている。トップグループのラスト2000mのラップタイムは、2分52秒/2分41秒で、スローペースなら最後はもっと上がりますから。東京五輪で同じような展開になった場合、ラスト3000mを8分40秒程度で走れないとメダルは無理でしょう。
西本 この世界陸上で負けた夜、ミーティングが行われて、横田さんが「最初から全力で走るんじゃなくて、もっと効率よくエネルギーを使って走るほうがいいんじゃないの?」とアドバイスをしたんです。新谷さんも今のままじゃ世界に通用しないと痛感して、この時から横田さんに練習を任せることにした。ようやく本当の意味で「横田・新谷コンビ」が誕生しました。そしてまずはスピード持久力を上げるために、ハーフマラソンの日本記録を目指すことにした。
森岡 なるほど、だからこそ新谷がバージョンアップしたんですね!
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