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独走しても「もう10~15秒速く走れないと世界と戦えない」… 田中希実が元選手の父親と歩んだ道〈1500m日本新〉
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKYODO
posted2021/08/04 11:00
2020年8月23日のセイコーゴールデングランプリ1500mを日本新で優勝した田中希実
「レース自体の記憶はないですけど」
レース後、こうコメントしている。
「無我夢中だったので、レース自体の記憶はないですけど、走り終わってみれば日本記録。うれしくて、安心しています」
急きょ、別の靴で臨んでのタイムは、ホクレン・ディスタンスチャレンジの好記録がただの勢いや靴の効能によるものではなく、田中の地力であることを証明するものでもあった。
9月4日に21歳の誕生日を迎える田中は、中学生の頃に全国女子駅伝に出場して区間賞を獲得するなど早くから注目される選手だった。
高校生になっても全国大会で活躍、2018年にはU20世界選手権3000mで日本人として初優勝を飾っている。
小柄ながらダイナミックなフォーム
ただ、高校卒業後に進んだのは独自の道だった。
多くの選手は高校を卒業したあと、実業団あるいは大学の陸上部で競技に打ち込む。
しかし、田中は同志社大学に進学しつつ豊田自動織機のサポートを受ける。元選手の父がコーチを務め、父の指導を受けながら練習に励んできた。
実業団や大学の陸上部に籍を置けば、どうしても駅伝にある程度重心を置くことになる。それにとらわれずに幅広く競技に取り組める環境を整えて取り組み続けてきた。
昨年は世界選手権5000mに出場し、予選を突破、決勝では14位となり、あわせて東京五輪の参加標準記録もクリアした。
153cmと小柄ながらダイナミックなフォームから生み出されるスピードが持ち味だ。
「練習でラストスパートの力はつけていたので」、と日本新記録を樹立した8月23日のゴールデングランプリを振り返っているが、スタートから飛ばして前に出て、そして終盤にスピードを変えられる強みがある。
そうした特徴が、好記録と好成績につながっている。