オリンピックへの道BACK NUMBER
「金メダルはこれっぽっちのものであるように感じて…」苦難の5年間を越えて萩野公介がたどりついた「いちばん幸せ」なオリンピック
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2021/07/31 17:01
200m個人メドレー決勝を泳ぎ切った萩野公介は、盟友である瀬戸大也と抱き合った。メダルのない五輪は「いちばん幸せ」な五輪だったという
「大也と泳げるなんて、すごく幸せです」
代表選考のかかる今春の日本選手権では400m個人メドレーをあきらめた。それも可能性を模索した上での決断だった。個人種目を1本に絞り込んでのレースだった。
200m個人メドレーで代表になり、迎えた3度目の大舞台。4×200mリレーを経て、200m個人メドレーに臨んだ萩野は予選を通過。そして準決勝を泳ぎ決勝進出が決まると、涙を流した。
「(予選、準決勝、決勝の)3本を泳げるか分からない」と考えていた。その中で進むことができた。
「いろいろなことがありましたが、もう1本行けるなんて。(瀬戸)大也と泳げるなんて、神様がくれた贈り物としか思えないくらい、すごく幸せです」
小学生の頃から競い合ってきたライバルであり盟友でもある瀬戸と泳げることもうれしかった。
そして、決勝は終わった。
「このオリンピックがいちばん幸せでした」
「泳ぐ前から、ほんとうにいろいろなことを思い出して、大也と一緒にレースを泳ぐのも二けたでおさまっているのか分からないぐらいですけど」
準決勝の涙と対照的な笑顔で語った萩野は、こうも語った。
「僕自身はこのオリンピックがいちばん幸せだったと思います。ロンドン、リオはメダルを獲りました。今回は決勝1種目だけ、順位悪いけど、いちばん幸せでした」
幸せだと感じることができたのは、気づきがあったからだった。
「ずっと前ばかり見て、しんどいなと思って後ろを振り返ったとき、応援してくれる人がたくさんいました」