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「悔しい…高校最後の夏はもう2度とないんです」“米子松蔭問題”のカゲで泣く高3の話《諸事情で試合に出られない》
posted2021/07/21 17:00
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by
KYODO
先日、夏の高校野球鳥取大会で、優勝候補でもあった米子松蔭高校が、「学校関係者1人の新型コロナ感染が確認されたことを理由に、出場を辞退する」とのニュースが報じられた。その一報が報じられると、SNSを中心に大きな批判の声が巻き起こる。
「チーム内に感染者が出たわけじゃないのになんで?」
「なんとかならないのか」
「ひどすぎる」
「3年生がかわいそう」
そんな多くの声を受け、19日、鳥取県高野連は一転して米子松蔭の大会出場を認める決定を下すこととなった。賛否の声はあれど、高校最後の夏に向かう球児もいる中で、彼らの夢が試合前に潰えなかったのは個人的には素直に「良かったな」と思う。
一方で、このニュースを聞いてふと頭に浮かんだのが、つい先日話を聞いたある高校生ランナーの姿だった。
◆◆◆
なぜいきなり“3000m障害”に出たのか?
「率直に、めちゃくちゃ悔しいです。『この先の別の大会で取り返そう』という気持ちにしようとは思っていますけど、やっぱりインターハイ予選とかの映像が流れていると……直視できないですよね。『なんで俺、ここにいないんだ』って。ただただ、悔しくて、苦しいです」
絞り出すような小さな声は、彼の悔しさを表しているようだった。
6月下旬に行われた陸上の日本選手権。今年は同時にU-20カテゴリの日本選手権も開催されていた。三浦龍司(順大)の日本新記録に沸いたシニアの3000m障害のレースが始まる1時間前――まだ観客もまばらな夕刻に行われたU-20の同種目に「彼」の姿はあった。序盤は積極的に先頭集団でレースを進めた彼だったが、その後障害物に足を取られると、そのまま転倒。実質的に、この日のレースの勝負はそこで終了となった。
3000m障害というのは陸上競技の中でも特殊な競技だ。3000mを走る間に大ハードルを28回と水壕を7回、越えなければならない。だからこそ長距離種目では珍しく、走力に加えて技術の要素も絡んでくる種目なのだが、彼の障害飛越は素人目に見ても明らかにつたないものだった。U-20カテゴリとはいえ、日本選手権に出場する選手の中ではあまりに異質な走り。聞けば、同種目を走るのは「これが人生で初めて」だったという。
ではなぜ、彼は日本選手権という大舞台で、初挑戦の種目に臨まなければいけなかったのか――?
「試合禁止」あっけなく終わった高校最後の夏
その理由を紐解くには、時計の針を1カ月ほど戻す必要があった。