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「悔しい…高校最後の夏はもう2度とないんです」“米子松蔭問題”のカゲで泣く高3の話《諸事情で試合に出られない》
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byKYODO
posted2021/07/21 17:00
出場辞退から一転。初戦に臨んだ米子松蔭高。境高(左側)を相手に3-2でサヨナラ勝ち
「この夏はもう二度とないんです」
「県大会前まではむちゃくちゃ、調子良くて。『県大会もかなりイケそうだな』と思っていたんですけど、ああなってしまって……。切り替えようとはしたんですけど、そこからは急に走れなくなってしまった。正直、今日もまだ尾を引いていたというか。県大会以降はポイント練習もすこしレベルを下げてやる感じになってしまって、ちょっと調子が上がりきらなかったというか。気持ちが切れてしまった部分があったのかもしれません」
そう答えた彼の口調は、あまりに淡々としているように見えた。悲しさや悔しさ以上に、どうしようもない虚しさを孕んでいるように感じた。
「『コロナだからしょうがない』というのはわかるんです。わかるんですけど、それはやっぱり大人の理屈で。他の記録会や、先の大会に向かって思いを消そうとしているんですけど、やっぱり……悔しいですよ。どんなに大きな大会に出たって、この夏はもう二度とないんです」
「箱根駅伝、走りたいですね!」
今回、米子松蔭高校の野球部は無事、大会への再出場をすることができた(7月21日の“再試合”では3-2で逆転サヨナラ勝ち)。
それは選手自身や支援者たちが現状のおかしさに声を上げ、それがSNSでも拡散され、多くの人に受け入れられたからでもある。ただ忘れてはいけないのは、彼のように表に出ていないだけで、今回の件以外にも似たようなケースが数多くあるということだ。彼らは「諸事情」という大人の言葉を飲まされ、コロナ禍のせいにすることもできずに、高校最後の夏を過ごしている。
だからこそ、このコロナ禍が続く限り、学生スポーツに関して出場・不出場も含めて的確な線引きを作ることが重要なのだと思う。彼らの「高校最後の夏」はもう二度と帰ってこないのだから。
「進学後も競技は続ける予定です。箱根駅伝、走りたいですね!」
そう言って彼はミックスゾーンから去って行った。願わくば、この経験を糧に何年後かに彼が箱根路を駆けている姿を見たい、と思った。