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「悔しい…高校最後の夏はもう2度とないんです」“米子松蔭問題”のカゲで泣く高3の話《諸事情で試合に出られない》
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byKYODO
posted2021/07/21 17:00
出場辞退から一転。初戦に臨んだ米子松蔭高。境高(左側)を相手に3-2でサヨナラ勝ち
「5月以降しばらくの間、対外試合への参加が禁止になってしまったんです。そのため出られるレースがなくて、参加標準記録を突破できていたのがこの種目だけだったんです。もし、5月以降も普通に記録会やインターハイ予選に出場できていれば、専門種目の1500mや5000mでもU-20の日本選手権への出場可能性もあったと思いますが……」
彼の言葉は、嘘ではない。
もともと彼は高校の中・長距離界のメイン種目である1500mや5000mでも全国で有数の記録を持つ選手だ。これまでインターハイや都大路への出場経験こそなかったものの、昨冬以降の成長にも、目覚ましいものがあった。実力を考えれば、今夏のインターハイ予選でも問題なく全国まで勝ち上がり、猛者たちと大舞台で上位を争っていたはずだった。
ところが彼は学校からの「対外試合への参加の禁止」を受け、5月末の県大会の時点で大会出場を見合わせざるをえなかったというのである。彼の高校最後の夏は、あまりにあっけなく、その終わりを迎えていた。
県大会前日に「出られなくなった」
その理由を尋ねると、彼は厳しい表情で「諸事情で……」と言葉を濁した。
この状況で「諸事情」と言えば、その可能性は絞られる。事実、彼の高校では県大会の数日前に、新型コロナウイルスの感染者が確認されていた。そしてそれは陸上競技部とは全く関係のない生徒だったという。
「県大会の前日に競技場に行って、練習を終えて。『宿に向かうかな』というタイミングで、突然、先生から『出られなくなった』と伝えられて。その日の練習に向かうバスに乗った時にいろんな話を耳にして、なんか嫌な予感はしていたんです。でも、もう県大会の競技場まで来ていたんで。『さすがに大丈夫だろう』と思っていたんですけど……ダメでした」
高校3年間、打ち込み続けてきた競技だ。全国トップクラスの選手ともなれば、大げさではなく24時間365日の生活を賭けている。いわゆる「普通」の高校生活を投げうって、毎日、愚直に走り続けてきた。その集大成のはずだったインターハイへの切符は、あまりに唐突に、彼の手から滑り落ちた。