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「絶対投げ出さない」父との約束を胸に5大会連続五輪出場 重量挙げ・三宅宏実が懸ける“競技人生最後の日”
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PHOTO
posted2021/07/18 17:00
19年9月に公開された練習の様子。緊急事態宣言中はナショナルトレーニングセンターが使えず、自宅でトレーニングに励んだ
続く2012年ロンドンでは、北京での2つの反省を踏まえて臨んだ。1つは減量の方法の改善。そして「メダルという目標を口にしたけれど、言うと駄目なタイプなんです」という自己分析をいかし、「6本成功すること」を主眼に置いた。結果、雪辱を果たす銀メダルを獲得。続くリオでも銅メダルという果実を得た。
本当なら、年齢的に見ても、また長年酷使した身体の状態からしても、ここで競技生活を締めくくる選択肢がないわけではなかった。それでも踏みとどまったのは、次が東京開催である一点だった。
その後の競技生活は、過酷を極めた。腰痛が悪化し、練習したくても満足にバーベルを持ち上げられない時期が長く続いた。一昨年の全日本選手権では全治2カ月におよぶ怪我も負った。
それでも可能性を信じて進んできたとき、大会の延期が決まった。
「1年は長いです。体力、年齢的に重さを感じます」
「一度リセットさせてほしいです」
繊細な競技であるゆえに、精密な計画のもと、試合の日から逆算してトレーニングしてきた。怪我がちな身体と向き合いつつ、取り組んできたから、舞台がずれたことは衝撃だった。
それでも自宅で父と練習を重ねるうちに気持ちを立て直し、5度目の大舞台に臨む切符を手に入れた。それ自体に大きな価値がある。
「厳しい現状」で迎える東京五輪
そして東京五輪を迎える。2大会連続でメダルを手にしたときとは状況は異なる。トータル197.0kgの日本記録を持つ三宅だが、近年の大会では180kg台や170kg台にとどまるなど、思うような記録を出せていない。
オリンピックでは、トータル200kgを超えてくる選手たちがいると想定し、「厳しい現状」にあると認識する。
それでも、気力は充実している。
オリンピックをテレビで目にして、それによって「夢ができたし、始めたきっかけです」。その夢舞台をどんな意識で迎えようとしているのか。
「しっかり調整して、準備すること、それが最後の役目だと思います」
そして東京五輪をこう位置付ける。
「21年間の総まとめです」
開会式の翌日、7月24日。競技生活の最後となる日に、すべてを懸ける。