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大谷翔平とホワイ・ノット?の精神。メジャーの一流選手たちが「勇敢な冒険」にお世辞ではない好意と敬意を示すワケ
posted2021/07/17 11:04
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
2021年のオールスターゲームが終わった。大谷翔平は1番打者として打席に立ち、先発のマウンドに登って勝利投手となった。本塁打は打たなかったし、三振も奪わなかったが、100マイル超えの速球をオールスターで投げたのは、2018年のクリス・セール以来だ。
それだけではない。前日の彼は、ホームランダービーに出場し、1回戦でホアン・ソトに敗れたものの、500フィート超えの特大アーチを6本も飛ばした。
「大谷の年」という表現が大げさに聞こえないほどの存在感だ。ホームランダービーで優勝し、オールスターゲームで本塁打を放ち、三者三振まで奪う夢のようなシナリオを思い描いていた人も少なくなかっただろうが、それは欲張りというものだ。大谷の残した功績は十分に輝かしい。
スポーツ・イラストレイテッドも、ニューヨーク・タイムズも、MLB.comも、大谷の記事でもちきりだ。残らず眼を通そうとすると、夜が明けてしまう。記事の一部をかいつまんで紹介しておこう。
スポーツ・イラストレイテッド(電子版)のステファニー・アプスティーンは、オールスターに出場した他の選手たちの「大谷に対する驚嘆」を取材している。
冒頭に述べられるのは「二刀流のむずかしさ」だ。《ニック・カステヤノスは12歳であきらめ、ネイサン・イーヴォルディは14歳で断念した。ブランドン・ウッドラフも19歳で身を引いた》という記述が眼を惹く。
イーヴォルディ(レッドソックスの投手)もカステヤノス(レッズの外野手)も「大谷のメンタル調整は驚異的だ」と舌を巻く。投手としての下準備や相手のデータ処理だけでも大変なのに、打者としても対戦投手を研究しなければならない。練習も倍になる。「どうしたら、そんなことが両方ともできるのか」と、彼らはため息をつく。
現場からの発言だけに、リアリティがある。ブルペン、ジム、バッティングケージ……さらには、スカウティング・リポートの読み込みやビデオ分析やサイン確認など、時間と体力はいくらあっても足りないはずだ。
二刀流を断念した選手たち
彼ら以外にも、多くの選手が「大谷は1日に25時間生きている」と驚く。二刀流断念選手は少なくない。ジェイク・クローネンワース(パドレスの内野手)はレイズのトリプルAで投げていたし、ジャレッド・ウォルシュ(エンジェルスの内野手)も、2019年にエンジェルスで5試合に登板し、5イニングスを投げた。ふたりとも、投手としてはそこが終点だった。