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《昭和・平成政治史と将棋》田中角栄に「先生」と呼ばれた棋士の名は… 村山富市は矢倉囲い、共産党・宮本顕治は将棋会館で観戦
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byKyodo News
posted2021/07/11 17:03
中原誠名人からアマ将棋六段の免状を受け取る田中角栄首相(当時)
菅直人と田中秀征も将棋仲間だった
1996年7月。私は将棋連盟の理事らと厚生省を訪れ、橋本龍太郎内閣で厚生大臣を務めていた菅直人に二段の免状を贈呈した。菅は、橋本内閣で経済企画庁長官の田中秀征とは、ともに与党の「新党さきがけ」に所属していた盟友で、将棋仲間でもあった。
私は、同じ長野県生まれのよしみでその田中と懇意にしていて、菅が将棋好きと聞いて免状の贈呈となった。
写真は、菅(右)が厚生大臣室で将棋を指した光景。対局相手は田中。両者は早指しながら、手筋を連発する見ごたえのある攻防を繰り広げた。盤側で観戦していた私たちは、その強さに感心した。
菅は当時、薬害エイズや病原菌О-157の難題に直面し、記者会見では苦渋の表情を見せた。しかし、気のおけない好敵手と将棋を指し、つかの間の安らぎになったようだ。対局中は終始にこにことしていた。
「新人王戦」創設と共産党の初代委員長・宮本顕治
1969年に日本共産党の機関紙『赤旗』は、将棋の「新人王戦」を創設した。政党が主催した唯一のプロ棋戦で、今年で52期を数える。歴代の優勝者には羽生善治九段、森内俊之九段、渡辺明名人らがいて、若手棋士の登竜門になっている。現在の参加資格は、六段以下の若手棋士、選抜の女流棋士・奨励会三段・アマ強豪など。
新人王戦が創設されたのは、同党の初代委員長だった宮本顕治が将棋への理解が深かったことによる。自身も将棋を愛好し、「将棋は面白いうえにお金がかからず、庶民的な娯楽です。日本の伝統文化として発展させたいです」と、その意義を語った。
代々木の共産党本部は、千駄ヶ谷の将棋会館と近いので、たまに会館に寄って対局を観戦したものだ。
写真は、1974年に東京・多摩湖で開催された「赤旗まつり」の会場での宮本(中)。指導対局や縁台将棋が行われた将棋コーナーも開設され、宮本は必ず顔を出した。
「将棋文化振興議員連盟」発会式では安倍と鳩山が……
10年ほど前に「将棋文化振興議員連盟」が設立された。与野党の国会議員が超党派で、将棋を通して親睦を図る趣旨だった。発会式には約30人が出席し、会長には「黄門さま」こと渡部恒三(民主党)が選ばれた。
当時は民主党の政権下で、与野党の対立はそれほど激しくなかった。ともに元首相の安倍晋三(自民党)と鳩山由紀夫(民主党)は、隣同士に座って和やかに歓談していた。
なお、同連盟の現会長には、以前に芹沢八段に将棋を習ったことがある山東昭子(参議院議長)が務めている。
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