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「ベルマーレのビール、作ってくれませんか?」クラフトビール醸造所がJ1スポンサーに… 人気爆発のきっかけはFC東京サポだったワケ
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2021/07/10 11:01
湘南のホーム開催と言えばベルマーレビール。「サンクトガーレンブルワリー」の岩本伸久さんに話を聞いた
岩本さん:100%、人に知ってもらうのは無理だと思うんです。日本人は、ビールといえばこういうもの、みたいに1つの種類しかないと思っていることが多いじゃないですか。自分の知らない、新しいものに対して手を出しにくいというか。でも、「いつものがいい」っていう人まで取り込もうとは思っていないんです。そこで無理して飲んでもらっても、それは互いに幸せにならないんです。"いつもと違う"という違和感があるまま飲んでも、それは絶対美味しく感じないですよね。
ビールの考え方1つでも、スポーツ観戦にも通じるのでは
これはスポーツ観戦にも通じる話だ。様々な側面を見て知ることで、より楽しいものになる。
たとえば、華麗なパスサッカーを見せるチームが好きであっても、カウンター一発で勝つのを全否定してしまうのは健全ではない。スタイルの好き嫌いがあるのは当然だが、"そういうものもある"と存在を認められるか――。多様性が良い競争を生み、全体の質が高まっていくことに繋がるし、文化として成熟されるからだ。
話を戻そう。だから、岩本さんは手が届きやすい存在にしようとしている。気軽に飲んでもらわなければ美味しさを知ってもらえない。なにより、楽しんでもらわなければ作っている意味がないからだ。
――ベルマーレは「たのしめてるか。」というスローガンを使っていますが、通じるものがありますね。
岩本さん:勝てないと楽しめないよ、って思うこともありますけどね(笑)。冗談はさておき、ベルマーレさんには感謝しています。考え方がすごく良いんですよ。たとえば去年の夏前にスタジアムでビールを売れなくなってしまって大変だった時、他のチームでやっているブルワリーに声をかけてJリーグセットみたいなものにまとめて売れないかと思ったんです。でも、それぞれのチームに事情があって実現しませんでした。……ただ、そういう時にベルマーレは「いいですね、やりましょう!」と言ってくれるんです。僕らのことを考えてくれる。
互いの利益にこだわらないことで、互いの利益が生まれる。コロナ禍でクラブ、ブルワリーともに苦しい時期だった中での1つの出来事は、クラブとスポンサーのあり方として理想のものに思える形だった。
岩本さん:まあ良いところでも悪いところでもあるんですけどね(笑)。「スタジアムでビアフェスをやりましょう!」と持ちかけられることもあります。ただ、それだとクラブの売り上げは決して増えないはずだよ(※その日の全体の消費量は増えても、売り上げは他からゲストで呼んできたところと分け合うことになるため)って思うんですけどね。
ベルマーレというクラブにそういう姿勢があるからこそ、両者の繋がりが生まれ、それが10年以上も続いているのだろう。
どこに行ってもクラフトビールがあるようになれば
――今後、ベルマーレとやりたいことはありますか?
岩本さん:スタジアムを作ってほしいですよね。サッカースタジアムで、ショッピングモールみたいになっていて、そこにブルワリーが入って……。
――そういえば、サンフレッチェ広島の新スタジアムのイメージ図の中に、スタジアムブルワリー、というのもありました。
岩本さん:いいですねえ。どこに行ってもクラフトビールがちゃんとあるようになればいいですよね。
――このところ色々なチームが出すようになったことは願ったり叶ったりですか?
岩本さん:最初は何もかも前例がなくて、うちもベルマーレの担当者の方も、色々大変でした。これからやるところは、その頃に比べるとかなり楽になっているのではないかと思います。だから……感謝してほしいな、なんて(笑)。サッカーだけじゃなく野球も(横浜DeNAベイスターズ、東北楽天ゴールデンイーグルス、千葉ロッテマリーンズ、福岡ソフトバンクホークス)やり出しました。それは、うちとベルマーレさんの取り組みを見たからでしょうからね。
私自身、やっていて楽しいし、みんな喜んでくれますからね。やっぱり、夢みたいなことですよ。スタジアムに自分の会社の幕が出て……ビールかけ(2017年のJ2優勝時)だってそうです。みなさんに、世界一贅沢なビールかけ、なんて言ってもらえて……本当はJ1でやってほしいですけどね(笑)。
こう楽しそうに笑った岩本さん。言葉の節々には湘南への愛情、ブルワリーとしての矜持もあるように感じた。
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