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中野たむ「気の多い女は嫌いだよ」 “女の子の汚い部分が露呈する”白いベルトをスターダムの最高峰にできるか
posted2021/07/02 11:00
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
中野たむはスターダムの白いベルト(ワンダー・オブ・スターダム王座)を持っている。その2度目の防衛戦(vs上谷沙弥、7月4日、横浜武道館)が目前に迫っている。
「友達がいない子どもでした。3歳からバレエ教室に通っていて、学校から家に帰ったらバレエ、バレエの毎日でした。変わっていましたね。人といっしょにいられなかった。クラスメイトの女の子から一緒にトイレ行こうと言われても、意味が分からなくて、一人で行って来たら、って。ほとんど一人でいました。一人で絵を描いたり、ぼーっと外を見ていた」
中野は周りに合わせられないタイプだった。遠足に行っても、自分の興味があるところにみんなから離れて歩いていってしまった。
ある日、そんな中野に驚愕の瞬間が訪れる。
「たむちゃんって、そういう感じだからみんなに嫌われるんだよ」
中野は愕然とした。
「ええ、私って嫌われていたんだ」
「アイドルってカワイコぶっていればいいんでしょ」
高校を卒業してミュージカルの専門学校に通った。2年で卒業して、全国を回るミュージカルのツアーで歌って踊っていた。
新しくアイドル・グループができるからやらないか、と当時のマネージャーに誘われた。
歌って踊って、誰かに喜んでもらう。「カタモミ女子」という名のちょっとしたブームにもなった店舗型アイドルだった。肩もみもするし、ライブもした。それを卒業すると他のユニットも経験した。
アイドルには感激があった。
「ミュージカルって、やっているときはその場ではお客さんの反応はわからないんです。決まった所での拍手だけだから。でも、アイドルのライブってお客さんがその瞬間にうれしい、楽しい、幸せっていうのを投げてくれるんです。喜んでくれるということに感動した」
「アイドルをなめていた。アイドルってカワイコぶっていればいいんでしょ、と思っていたけれど、違った。お客さんはアイドル個人の生きざまを応援してくれるんです。人生の共有でした」
アイドル時代にゼロワンのリングで歌ったことがあった。東京タワーの下の野外会場だった。「ちょっとしゃべってよ」と言われて本部席に座ったけれど、中野は首をかしげてしまった。
「なんでみんなケンカしているんだろう。仲良くすればいいのに」
でも、中野はあることに気付いた。
「10分ほどの間に 悔しさ、嬉しさ、笑い、嫉妬とか詰まっていてこれはエンターテインメントの最高峰なんじゃないか、と。ダンスやミュージカルをやって来たけれど、ここが究極かもしれない」