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中野たむ「気の多い女は嫌いだよ」 “女の子の汚い部分が露呈する”白いベルトをスターダムの最高峰にできるか
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2021/07/02 11:00
スターダムの白いベルトを手にした中野たむは、“感情のベルト”への強い思いを抱いている
「私が上谷をプロレスラーにしちゃった」
中野は上谷を語り始めた。
「上谷はたむのことを師匠、師匠って言ってくれるのですが、私はそんなふうに思っていなくて、ずっと同じ目線で夢を見たいな、と思っていた。私は体格に恵まれていないし、飛んだりくるくる回ったりできないから、上谷はずっと怖い存在。スターダムの中では特別な存在。一緒に歌ったり踊ったりした人は他にはいないから。私が上谷をプロレスラーにしちゃったんですよ。
アイドルになりたくて来たのに、いつの間にかプロレスラーにさせちゃった。ただ、歌って踊ってキラキラ夢を与えたかっただけだったのに。プロテストの時なんかもプレッシャーがすごくてぎゃんぎゃん泣いていた。なんでこんな苦しい思いをさせちゃったんだろう。すごく責任を感じていた。でも、この前、シンデレラ・トーナメントに優勝して『プロレスに出会ったのは運命だった』と言っているのを見て、自分が勝手に気負っていただけなんだと思わせてくれました」
「今の上谷では白いベルトは絶対巻けない」
中野はちょっとした不安を感じている。
「シンデレラ・トーナメントで優勝した選手って、3年連続で白いベルトを巻いているんですよ」
実際に2018年は渡辺桃、2019年は星輝ありさ、2020年はジュリアが優勝した後に、それぞれ白いベルトを手にしている。この流れがもし続くなら、今度は上谷ということになる。
「怖い。自分がやっとつかんだ地位を脅かされることが怖い。でも、今の上谷では白いベルトは絶対巻けない。それは技術とかの問題ではなくて、やっぱり、まだ、プロレスラーじゃない。どこかでなり切れていない。自分の弱い部分から目をそむけようとしている。プロレスって生きざまだと思うんですね。人生の全部がリングに乗っかる。それが結果に出るし、勝敗にもつながる。上谷って昔からすごい怖がり。怖がりというか、自分の醜い感情から目をそむけたがる。本当はめちゃくちゃ病んでる時とかも出さないし、周りにさとられないようにするし、嫌な感情をまったく口に出さないんですよね」
「でも、この白いベルトは感情のベルトなんですよ。私はこの白いベルトこそがスターダムの象徴のベルトだと思っている。赤いベルトは技術のベルト。白いベルトは感情のベルト。呪いのベルトって呼んでいるんですけれど(笑)、そういう自分の汚い部分、嫉妬、憎しみ。いろんな人の怨念がこもったベルト。気持ちの強さで自分の足りない部分を補って巻けるベルト。そんな気持ちのある人が巻けるベルト。今の上谷はたぶん自分の弱さから逃げている。だから巻けないと思います」