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中野たむ「気の多い女は嫌いだよ」 “女の子の汚い部分が露呈する”白いベルトをスターダムの最高峰にできるか
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2021/07/02 11:00
スターダムの白いベルトを手にした中野たむは、“感情のベルト”への強い思いを抱いている
「プロレスラーになろうと思ったことはなかった」
だからと言って、中野はプロレスラーを目指したわけではなかった。
「プロレスラーになろうと思ったことはなかった。舞台の関係者からスカウトされて、会ってほしい人がいるんだけれどと言われて行ったのがアクトレスガールズ。ちょっと練習を見に行っただけなのに、代表から、今日からたぶん練習生になるから、と紹介されてしまって。練習はマット運動とかするんですけれど、バレエとかダンスの延長のようで楽しかった」
デビューは2カ月後の2016年7月にやって来た。
「受け身も取れないから、すぐにケガが続いた。ヘルニアで首が回らなくなった。足首の靭帯を伸ばしたり」
FMWのリングにも上がった。
もうすぐデビューして5年、スターダムにやって来て4年になる。
スターダムに来る前、何回かセコンドについているときに後楽園ホールで見た岩谷麻優と紫雷イオの試合が忘れられない。岩谷が紫雷をジャーマン・スープレックスでエプロンに叩きつけた。
「ここまでにはなれない。絶対無理」
「麻優さんがいる限りプロレスやめられない」
中野はスターダムに入って思ったことがある。
「すごく女子だなあ、って。私、鈍感なのであまり感じないほうなんですが、みんながみんな、笑顔の裏でどこかしら人の足を引っ張ろうとしていた。怖かった。何回も辞めたいと思った。最初のうちはずっと辞めたいと思っていた。ロッシー小川さんにも言った。辞めたいって。どうしようもない時、泣いてわめいていた時に助けてくれたのが岩谷(麻優)選手。麻優さんがもうちょっと頑張ろうって。麻優さんってそういうこと言わない人なのに、手を差し伸べてくれた。今度一緒にベルト巻こうねって。それで、麻優さんがいる限りプロレス辞められないと思いました」
中野のタイガー・スープレックスやジャーマン・スープレックスが高いブリッジできれいに決まる。
「宇宙一のスープレックス・マスターを目指しています」
3月3日の日本武道館、中野は髪の毛も賭けて、ジュリアの白いベルトに挑んだ。
「自分が坊主頭になったら、今、好きって言ってくれている人が好きじゃなくなっちゃうのかな。自分のアイデンティティが宇宙一可愛いっていうところにあるから、全部なくなっちゃうのかな」と心配した。
勝つことができた中野は、髪の毛を切られるジュリアを見て思った。
「オシャレじゃん、格好いいじゃん、ずるいよね。でも両方かけてくれたジュリアには感謝している」