サムライブルーの原材料BACK NUMBER
「短くて3カ月」父が余命宣告されるなか…ラトビアなど7カ国を渡り歩いた元浦和レッズ・赤星貴文が引退から1カ月で復帰したワケ
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byGakunan F Mosuperio
posted2021/06/10 11:00
静岡県社会人1部・岳南Fモスペリオに入団した赤星
オファーの話を父にすると、喜んでくれた。
帰国してからはなるべく傍にいようとした。父は胃ろうでの生活になっていたが、散歩したり、本を読んだりと実家で普段どおりに暮らすことができていた。
赤星はある日、母と一緒に担当医師から説明を受けた。「お父さんの最期は、頸動脈が切れて血が止まらなくなってしまう」のだと。赤星はやがてその日が来ることを覚悟した。
医師の説明を受けて3日後のことだった。
娘を連れて実家に遊びに行き、赤星が通っていた小学校に父と3人で行くことにした。昔、自分が小学生のころ、試合になると父は母と一緒によく応援に駆けつけてくれていた。その記憶が鮮明によみがえってくる。時間が過ぎ、娘と父と3人でこの場所にいることを不思議に思いつつも、心地良く感じた。父も娘も、実にうれしそうに、楽しそうに。時間が止まってほしいと思った。
娘が「おじいちゃんが血を吐いている」と……
父を実家に送った数時間後だった。
赤星は自宅に戻ってクラブ側と入団会見の打ち合わせをしていた。そのとき実家にいた娘が慌てて自分を呼びにきた。おじいちゃんが血を吐いている、と。
赤星は急いで実家に向かった。
救急車が到着する間、赤星は自分のひざに父の頭を乗せた。
お父さん! お父さん!!
何度も呼び掛けながらも、段々と意識が遠くなっていく父。言葉は交わさなくても、父から伝わるものがあった。
父は天国に旅立とうとしていた。
赤星は気丈に振り返る。