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「負けるよりも屈辱的だった」井岡一翔の怒りは収まらない “薬物疑惑”をかけられた世界王者が語るJBCへの思い 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2021/06/03 11:04

「負けるよりも屈辱的だった」井岡一翔の怒りは収まらない “薬物疑惑”をかけられた世界王者が語るJBCへの思い<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

薬物疑惑をかけられた井岡一翔は、身の潔白を証明された今も怒りを隠さない

愛息の写真に「シャブ中の息子」とコメント

 いったん騒動は落ち着いたものの、今度は報道という形で井岡の日常は再び瓦解する。4月21日、所属事務所に週刊誌2誌の取材が入り、26日、井岡の“ドーピング違反疑惑”が世に放たれたのだ。

 4階級制覇王者から禁止薬物―のニュースはたちまち世間を騒がせた。採取された尿のA検体には大麻成分が、B検体では覚醒剤につながりうる成分が検出されたと報じられた。SNSでの誹謗中傷は容赦ない。愛息の写真に「シャブ中の息子」とコメントされた。井岡の怒りとストレスは爆発寸前に達した。

「やってないのにやっているみたいな状況になって、現実と非現実が交差しているというか。やっていなくてもこのままクロにされてしまう可能性もある。本当にずっといろいろなことを考えていました」

photograph by Takuya Sugiyama

アスリートへの侮辱だし、敗北よりも屈辱的

 無実の罪を着せられ、もうボクシングはできないのではないかという不安と恐怖、理不尽な現実に対する怒りに襲われた。記者会見を開き、自分の声で無実を主張したかったが、それは弁護士に止められた。潔白を証明するためには具体的な証言、専門家の鑑定結果を提出しなければダメだ。ただ「やってません」だけでは信じてもらえない。そう説得されたのだ。

「悔しさだったり、悲しさだったりがありましたけど、自分たちではどうにもできない状態になったので、ただその時その時を、『大丈夫やから頑張ろう』と妻と励まし合ってました。絶対に正義が勝つという世の中であってほしい。そういう思いで励まし合っていたと思います」

 公にではないが、井岡に弁明のチャンスが巡ってきたのは5月11日のことだった。この日、JBCが設置した第三者で構成される倫理委員会によるヒアリングが行われた。井岡は思いの丈をぶつけた。

「中学1年でボクシングを始めて、21歳で世界チャンピオンになり、自分が長い間、どんな思いでボクシングにかけてきたかを言葉にしました。人生をかけているし、守るものもある。こういうことが起きたこと自体、アスリートへの侮辱だし、敗北よりも屈辱的です。正々堂々と戦って負けるのは受け入れられるけど、何もないことは受け入れられない。まして選手を守らないといけないJBCがこういうことをするのはショックでは収まらない、本当に屈辱的な気持ちです。そういう話をしました」

【次ページ】 問題は検体の管理のずさんさにあった

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