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「負けるよりも屈辱的だった」井岡一翔の怒りは収まらない “薬物疑惑”をかけられた世界王者が語るJBCへの思い
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/06/03 11:04
薬物疑惑をかけられた井岡一翔は、身の潔白を証明された今も怒りを隠さない
問題は検体の管理のずさんさにあった
倫理委員会は5月18日、最終的な調査結果を答申書としてまとめた。井岡の主張は全面的に認められ、潔白であることが証明された。問題は検体の管理のずさんさにあった。検体は冷凍保存をすべきところ、常温で何時間も放置し、そのあとJBC職員が自宅の冷蔵庫で保管していた。これではそもそも検体として用をなさない。答申書では、検査で陽性反応を示した禁止薬物はいずれも保管中に産生された可能性が否定できないと結論づけた。
井岡はあらためてこう感じている。
「今回の件をプラスに考えるなら、これも一つの自分の使命だと思うんです。今後、僕のような選手が二度と現れないようにする一歩じゃないのかなと。今このタイミングでこうなったからには、JBCの体制を変えてもらわないと僕自身やっていけないし、他の選手は安心してパフォーマンスに集中できない。試合に勝ってもドキドキして喜べないですよね」
「絶対にどうにかできるというか、してやる」
振り返れば井岡のボクシング人生は決して平坦ではなかった。'90年代のスター選手、井岡弘樹の甥っ子というサラブレッドとして常に注目を浴び、それ故に逆境にさらされた時の風当たりは強かった。にもかかわらず、井岡はどんな向かい風にも乱れることなく、10年にわたりトップの座をキープし続けてきた。その強さはいったいどこからくるのだろうか。
「本質を分かっているということが一番大きいと思います。自分が何をすべきなのか、自分には何ができるのか。完璧じゃないけど、そういう状況判断能力が結果につながっているのではないかと。あと、人として絶対にこのままでは終われないという気持ち。そこは、理屈とかではなく、自信はありますね。絶対にどうにかできるというか、してやるという」
今回の事件の理不尽さは今までの逆風の比ではない。それでもなお、井岡はこれまでと同じように、正面から現実を受け止め、なお一層たくましく前へ進んでいく。