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「負けるよりも屈辱的だった」井岡一翔の怒りは収まらない “薬物疑惑”をかけられた世界王者が語るJBCへの思い 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2021/06/03 11:04

「負けるよりも屈辱的だった」井岡一翔の怒りは収まらない “薬物疑惑”をかけられた世界王者が語るJBCへの思い<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

薬物疑惑をかけられた井岡一翔は、身の潔白を証明された今も怒りを隠さない

ドーピング検査が3カ月以上たってなぜ問題になるのか?

 警察? 大麻? 大みそか? まるで見えない角度からもらったパンチでノックダウンを喫したボクサーのように、井岡の頭は混乱し続けた。ひょっとすると自分は知らないうちに車で人を轢いてしまったのだろうか? 同じマンションの住民が何か犯罪に巻き込まれ、警察はその件で話を聞きにきているのだろうか? 捜査員の質問に答え、言われるがままに妻ともども尿を提供しても、目の前で起きていることが現実だとは思えなかった。

 大みそかの試合とは、昨年暮れに行われたWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチである。王者の井岡が挑戦者に田中恒成を迎え撃った防衛戦は、「格が違う」と言い続けた井岡が有言実行の8回TKO勝ち。この試合は国内の2020年の年間最高試合に選ばれ、海外での評価も上々だった。

 その試合のドーピング検査が3カ月以上たってなぜ問題になるのか? ワンボックスワゴンに乗せられ、桜田門の警視庁に向かいながら井岡は考えた。

「警察では提出したCBDオイルのことを聞かれたり、いくつも『この言葉を知っていますか』と質問されたりして……。午後5時ぐらいに帰ってもいいと言われた時は本当にほっとしました。もう、このまま牢屋に入れられるのかと思ってましたから」

JBCから連絡がくるのが筋ではないのか

 CBDオイルとは大麻の違法でない成分で作られたオイルであり、疲労回復などの目的で体に塗ったり、飲んだりするものだ。

 そして数日後、自宅を訪れた警察は「何もなかったのでこれで終わりです」と告げた。安堵感がなかったわけではないが、どこか腑に落ちない気持ちが強かった。

 その一番の理由は、やはり警察がいきなりやってきたことである。疑いの原因が世界タイトルマッチのドーピング検査であれば、検査を担当しているJBCから連絡がくるのが筋ではないのか。

 日本国内のボクシングで禁止薬物が検出されたケースは過去にないが、海外に目を向けるとドーピング違反はちょくちょく起きている。違反が見つかると試合を管轄するコミッションが選手に速やかに通達し、選手側は異議があれば申し立てをする。結果、選手側の主張が認められたり、認められずに該当試合がノーコンテストになったりする。井岡は当然のことながらこうした流れを知っていた。

 ところが今回の場合、JBCから一切連絡がないのだ。しかも大みそかの試合からは既に3カ月以上もたっている。これって何かおかしくないか? 違和感は少しずつ膨らんでいった。

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